スポンサーリンク
スポンサーリンク

B&Wは16年間中国でスピーカーを作っている(ローテル珠海)

スポンサーリンク

B&Wの中国生産の歴史は長い。ひとことでいえば2005年にローテル(Rotel)の珠海工場で生産を開始して以来16年が経っています。しかも今や800シリーズ向けの部品を供給するサプライヤーでもあります。

中国生産の歴史・Rotel珠海工場で2005年から

時系列としてはこうなります。

  • 2003年  デンマークLudvigsen Møbler社を買収(キャビネット生産)
  • 2005年  Rotel社の珠海工場内に専用ライン新設
  • 2009年  デンマークの自社工場を閉鎖
  • 2012年  Bowers and Wilkins Tradingを中国(珠海)に設立
  • 2016年  珠海工場設立(B&Wによる100%出資)
  • ※同年TVA AutomationがB&Wを買収

英国人らしいなと思うのは、まずは現地のメーカーを探してそこへ生産委託を行うというところから始めたということです。
現地法人(オフィスのみ)すら2012年設立。極めて用心深い。

そもそも珠海市とは・香港、東莞、深圳のすぐ近く

珠海市とはどこか。アタシたち製造業にはなじみが深い深圳の近所でありますが一般的には香港の近く、マカオのすぐ隣というほうがわかりやすい。
いきなり地図です、感覚的にこの場所ということで。

行政区としてはマカオに属しています、人口158万人の経済特区。深圳市と比べると10分の1の人口で工場進出の余地がある土地。

最初の自社法人は「Bowers and Wilkins Trading」

自社法人が設立されるのは2012年、ただこの時点ではまだ輸出入の管理を中心とするオフィスだけで製造設備には投資していません。

生産を行ってきたのはアンプメーカーのローテル(Rotel)です。

Rotel珠海工場は長い間B&WスピーカーとClasseアンプを作ってきた

ローテル珠海工場は同社の生産のメイン工場になります。ここが長くB&Wの600・700シリーズを生産していたとは今回驚いた内容です。

Rotel Electronics - a Zhuhai factory tour | Darko.Audio
John Darko takes a tour of Rotel's Chinese self-built/owned manufacturing facili...

Via”Rotel Electronics – a Zhuhai factory tour”(Darko.Audio official website https://darko.audio/2015/03/rotel-electronics-a-zhuhai-factory-tour/)

これはB&Wのオーナーが一番ご存知のことだと思いますが2005年の時点から現在に至るまでB&Wの造りが落ちたという評価はただの1回もありません。

海外でも日本でも、高品位の代名詞でした、というより音で迷ったらフィニッシュの優れたBowers and Wilkinsにせよというレビューが多かったほどです。
これほど長期間作っていればどこかで仕上げのバラつきなどが指摘されるはずなのですが、それがない。
ある意味「B&Wのスピーカーはどこで作られているんだ」という質問が内外で飛び交う理由です。
珠海工場でどんな作業をしているのか、内部を詳しく公表していませんが製品の質は高い。

もちろん800シリーズのような作業者のスキル向上に頼るような生産はしていないはずです。
というのもこの地域では同じ会社に何年も務めるという習慣がありません。
少しでも給与が高ければすぐ辞めるので(本当に翌日から来なくなる)ハンドワークの技量向上には全く頼れない。
手加工の部分は誰がやっても均一化するようにライン構成を考える必要があります。

ただしその製造ノウハウはもうローテルが何年にもわたる実績を持っていた、ということは重要だと思います。恐らくB&Wがどんな管理手法を持っていてもいきなり中国工場を建てたら全く上手くいかなかったでしょう。

10年以上ローテル工場を使い続けて堅実に中国での品質管理の実績を積んでいった、その上で自社工場を作ったのはなかなかです。

ちょっと面白いのはローテル珠海工場が本格稼働するのは2005年だということです。つまり同じタイミングでB&Wの生産も始めた。
しかも工場のワークスペースの半分はB&W関連だったらしい。

つまり簡単に言えば

(B&W)『中国不安だけどローテルさんが作業者集めも管理のしかたも知っている!』

(ローテル)『新工場の半分は完全に稼働決まった!』

個人的には出来たばかりの工場に生産委託させていいのかと不安になりますが、ローテル自体はすぐ近所の深圳で長く工場経営を行っており現地の労働力確保や管理、そして行政との調整も問題がなかったと思われます。

ローテルは地味な会社です。創業の地である日本ではほとんど知名度がなく、メディアに頼らないで聴いて納得するタイプのユーザーの支持があるばかりです。

ただ生き残り経営といえるその運営はしたたかです。
2000年にB&W系ディーラーでの販売から始まった関係ですが、B&Wとは距離を置いた独立した立場を保ち、2016年のEVAによる買収とその後の同社破産でも公式には影響を受けていません。

ローテル珠海ではスピーカーだけでなくClasse(当時B&Wのグループ会社)のアンプ部品、というより主要モジュールの生産を行なっていました。


(広告・Amazon)【Amazon.co.jp限定】ゼンハイザー オープン型ヘッドホン HD 599 SE【国内正規品】

デンマーク工場がうまくいかなかったことが中国進出のきっかけ

そもそも中国に行った直接の理由はデンマークの家具工場買収とその後の運営が上手くいかなかったからです。

初代801ノーチラスが発売された時、キャビネットの主力生産サイトとして大々的にアピールされた工場は初期からつまづいていました。
2003年にLudvigsen Møbler社を買収して、その2年後にはローテル珠海での生産開始ですから。

HIFI4ALL.DK | Anmeldelser | B&W: Bes�srapport og test af B&W 703
Redakt�en tager dig med p en fascinerede tur til B&W Loudspeakers' f...

Via”B&W: Besøgsrapport og test af B&W 703″(HIFI4ALL.DK official website http://hifi4all.dk/content/templates/anmeldelser.asp?articleid=569&zoneid=3)

デンマークに関する情報を見ると、2005年以前から中国に少しづつ仕事を出していた気配もある。
出来たばかりのローテル珠海に仕事を出したというのはそれだけデンマークの現状に焦っていたのではないでしょうか。

原因はコスト、そして「現地(デンマーク)特有の事情」だそうです。行政が協力しなかったのか、それともB&Wのあのファナティックな管理に社員がなじまなかったのか。
2009年には完全にデンマークの製造サイトは閉鎖されています。

Ludvigsens møbelfabrik lukker
Fabrikkens engelske ejer, B&W Loudspeakers Ltd., har valgt at flytte produktione...

Via”Ludvigsens møbelfabrik lukker”(Wood Supply official website https://www.wood-supply.dk/article/view/30928/ludvigsens_mobelfabrik_lukker)

現在(2021年)のB&W中国工場

現在の中国生産は自社工場が主力です、というかそのはずです。
2016年に100%出資の工場を設立しています。現在ローテル珠海との関係が切れているかどうかについては全く情報がありません。

同じ珠海市に作られたこの工場は設立時に以下の公式アナウンスがなされています。

  • 投資金額は175万ドル
  • 敷地面積:25,000㎡
  • 215,000台/年のスピーカー生産能力
  • アンプの生産能力も備える(2,000台/年)
B&W sounds great for Zhuhai FTZ

Via”B&W sounds great for Zhuhai FTZ”(Zhuhai China official website http://subsites.chinadaily.com.cn/zhuhai/2016-12/09/c_63515.htm)

そしてファーストモデルは「700S2」(2017年)。
それまでの「CMシリーズ」はB&Wが期待したパフォーマンスではなく、代わりとしてのテコ入れの意味があったとか。

よくよく考えますと702S2を難なく作っているわけです、あの仕上げは日本国内でもやるのはかなり大変です。確実に外観検査で不良多発のレベルであります。

Bowers & Wilkins 702 S2 loudspeaker

ただし2016年はTVA Automationによる電撃的な買収が行われたタイミングでもあります。
それから2020年にTVAが破産するまでの運営はあまり見るものがないと思ったほうがいいでしょう。

特にアンプ製造能力はClasseが作るはずだったAVアンプを前提としていたようです。つまり今この能力は(もしまだ保有していたなら)全く稼働していないはず。

B&W珠海工場が本領を発揮できるかどうかはこれからのSound United社の舵取りによると思います。
個人的にはこの工場を売却して元のローテル珠海に生産を戻しても全く意外性はありません。

いわれている情報を見る限り工場の稼働率は高いとは思えません。

(広告)
Amazon
本・ムック
Kindle楽天Books・Kobo

800シリーズ向けの「重要な部品」生産地でもある

なお800D4の海外誌取材でわかりましたが、「重要な部品」を中国から輸入している、とのこと。
それがこのB&W珠海工場の製造かどうかはわかりません。

以下は憶測、当てずっぽうです。多分B&W珠海とは違うんじゃないかと思います、受け入れ検査はするかもしれませんが。
16年間中国生産を行う中でいいサプライヤーを見つけ、そこに外注しているのではないかと。
東莞・深圳あたりならば相当高品位の制作ができる製造業者がいますから。

もしかしたらかつての工場だったローテル珠海がやっているかもしれない。

B&Wは製品のアセンブリだけでなく、重要なパーツそのものも中国で作っている。

こういう流れは好きです、よく中国製を嫌う人がいますが基本的には設備も上だしラインエンジニアも豊富ですぐに集められる。
いいものを作ると思っています。

相対的に欧米(そして日本)はスキルが落ちています、トランプ大統領の時、AppleはMacProを米国内で作ろうとしましたが工程は縮小した。
ラインエンジニアや作業者の質を確保出来なかったからです。

Made in 「欧米」のオーディオでも中をよく見ますと部品はChinaがとても多い。

ただ今のところ中国メーカーには何十年も継続するブランドを作ることには全く興味がありません。その時利益が出るかどうかだけ。

オーディオは特にそうですが、ブランドや音を継続していく(メンテナンスも)ためには大元のブランドを持つメーカーにスキルや意識がないと無理です。
その点B&Wのようなメーカーは信頼できる。

(広告)

本・ムックSound & Recording Magazine (サウンド アンド レコーディング マガジン) 2022年 4月号 (表紙&巻頭インタビュー:SUGIZO×HATAKEN)
Kindle

タイトルとURLをコピーしました