Sintraは見た目ジミーでありますが、実は英国プロダクツに共通の変態文法にきちんとしたがって作られています。
最初に申し上げますと、変すぎて好きです。こんなおかしなもの今無いので。
ついでに言えばヤツらのふてぶてしさが感じられてなんとも楽しい。
左右対称じゃない・ステレオのくせに
まずここでもうどうかしてる
右と左が同じカタチ、しかもツィーターはためらいもなくオフセンター。
おかしい、これでどんな置き方すればスピーカーから耳までの条件が左右同じになるっての。
こんな基本的な部分ですが買う前に気づきませんでした。
いや、ただこちらがうかつなんですけど。でもこんなとこ普通いちいち気にしません。
70年代はあったみたいだけど、あなた90年発売ですよ。
クルマ買う時ワイパーが標準かオプションかを確認するようなもんです。
ただですねえ、このスピーカー左右のシリアルNoは同じなんですよ、つまり左右ペアで管理している。もし音圧レベルとか音も合わせてたんなら(ユニットをみるとそうらしいが)もう笑うしかありません。
なおステレオイメージは凄く正確です、この見た目でどうしてそうできるのか全く分かりませんが本当にビシッと決まる。
分かりやすく申さば、オーケストラだと手前と奥のプレーヤーの遠近感がわかる。録音が良ければホール天井からの反響もわかる。
わからん、これでいいわけないのに。
同じモデル名でもデカく仕様を変える(平気で)
まずはこれをご覧ください、私のSintraの裏側
そしてこれが海外サイトで発見した「新型(?)」Sintra
ビョーキに罹ったみたいなボツボツのダクトになっています。
Sintraには92年の「New Sintra」94年「Sintra Inprove」がありますがそれではありません。
80年代はいろいろおおらかな時代でしたが、Sintraは一応90年発売のモデルです、これはねーだろと。
「新型」はたまに中古で流れてきますが並行らしい。なお調べるとふざけてるのかってぐらいどんどん新型Sintraが出てくる。
スピーカーユニットがちょっと変
なおコーンの中央に変なもんが詰まってます。
振動系の調整用ウェイトです。スピーカーコーンはこの部分も含めて振動するので、重さを変えると特に低音の特性が大きく変化する。
ただ見た目はどうかなど全く考えてない。チューニング中に重さを変えながら「おお〜いい感じ」でおしまいにしたと思います。
よく見ればユニットフレームにも何か雑に塗ってある。防振材だと思いますが。
まあ私も変わってるほうなので、この手造り感満載は好きですが。
箱は薄板を重ねたチューニング、金属と木をいろいろ重ねているようです。こんな大きさですがずっしり重い。
突板仕上げはウォールナットなど、手は掛かってる。
ただ理論よりもどちらかといえば経験と勘で仕上げようという構えでしょうか。
英国モノっていつもちょっとふてぶてしさが感じられます。
「嫌なら買うな」・英国流わがまま量産仕様
例えばハイエンドのオーディオ製品では、前期・中期・後期などに分けられるような内部の変更がよくあります。メーカーの規模が小さいため入手する部品業者が安定しないことが理由のひとつです。
だいたいは前期が良かったりする。
しかしさすがに変更はわからないようにやります。それにRoyd Audioって別にハイエンドなブランドでもありませんでした。
その点で英国オーディオってそういういい加減なところがあって、昔っからです。
1960年代に出ていたEMI DLS529も、製造年次でスピーカーユニットの仕様を変えるというフルパワーのわがままぶり。
非公式のふれこみながら「EMI Recording Studios」モニター、つまりアビーロードスタジオ・モニターをほのめかすぐらい音はいいのですが前期と後期で違いが大きすぎて手が出ません(なお実際にスタジオモニターとしては使われてません)。
そもそも「前期」とは正確にいつからいつまででどんな仕様かもわからん。
とにかく濃い音、実はHarbethよりもこっちに行きたい。ただミントコンディションの条件がよくわからない。
BBCモニターで有名なLS3/5も内部はバンバン変わっています。あれはビンテージでもかなり調べないと買えないものです。
日本のマニアならメーカーを大攻撃するところですが、面白いことに現地イギリスのWebフォーラムでユーザーの会話を見ているとこういうことを問題にするひとはあまりいません。
ここは深い、むろん闇じゃなくてフトコロの話です。
この音に何か不満があるのか?
ジョーアクロイドとっつあんに質問したらそんなふうに言われそうです。
いや、あたしは同じモデル名でありながら仕様が違う意味をききたいんですが。
英国プロダクツの極意「細かいことをごちゃごちゃ言うな」
英国プロダクツはありえないような造りを平気でやらかします、見た目はスッ堅気のくせに。
ジャガーのDaimler Double SIX Series3、「贅を尽くした」ってのをかたちにしたサルーンですが、このひと旧くなると天井のライニングがベロンと剥がれてくる。
見た目だけってならわかるんですがコノリーレザーです、なのに何故。
多分接着剤とか変えたらいいだけのはずなんですが。何故かヤツらはそういうことをしません。
あと新車のときから塗装が良くない、すぐくもる。これをピカらせるのに愛好家は苦労しています。
でもメーカーが恐れ入ったという話は聞きません、「そのようなことを気にする輩はそもそも買わなくともよい」とか言いそう。
アンティークの老舗だかで実際にそう言い放ったことがあると随分前に読んだことがあります。
アタシは日本の製造業にいますから安定した製造仕様はいつだって重い課題です。市場からクレームきたときは本当に眠れなくなります。
ですから多少の不良があっても知らんぷり、ましてや予告なき(デカい)仕様変更なんてちょっと想像がつきません。
日本の製造業の視点で見ていると昔の英国プロダクツは本当に面白い、グズグズ言うぐらいなら買うなとか平気で言いそうです。
手抜きをするつもりは無いらしく彼らなりの注力ポイントは別にあって、それは英国流の粋を具現化するみたいなものですが、こっち側ではすぐ理解できない。
国内メーカーにおりますと重箱の隅をツツくような会話が果てしなく続きますから。
意外に好感持てるのは男っぽいってところです。
ガタガタ騒ぐな、故障なんてあるよ。直しゃいいだろみたいな。
あるいは、こっちは長く作っているんだからお前のほうが慣れろとか。
実際Sintraも90年の発売から廃業までの14年間、基本は同じで作ったわけです。
しかしねえこういう工業製品が一見スッ堅気とは、恐れ入る。
細かいことは気にするなという野蛮さと、妙に遊び慣れしたセンスが両立しているのはなんとも、であります。