音楽が好きです、サブスクは特に最高。それでオーディオも好きであります。
多分マニアのメインストリームとは違うのでしょうけれど、自分の場合いい音というより「面白いオーディオ」に振れがちです。
いくつかある中で現在のメインスピーカーです。今はなきRoyd Audio『Sintra』、英国スピーカーであります。
オーディオは「自宅にアーティストが来る」趣味
家にアーティストが来てくれると思えば音楽を聴くことはとてもリッチな趣味。
なんといいますか、目をつむるとホールやライブ会場(うまくいくとスタジオに)にいるような。
まあ、実際にはなかなかそうもいかないんですが「あれっ」という一瞬がある。それでやめられません。ヘッドフォンやイヤホンも同じではないかと思います。
英国スピーカーはスルメの味
オーディオ自体も趣味として面白い。いつからでしょう、もう20年以上ハマってる。
カメラとかクルマに似ております。
撮ったり走らせるだけじゃなく、集めて、眺めて、触って、本読んでニヤニヤする。
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渡り歩いて今はRoyd Sintraです。
これは面白系のオーディオではありません、英国でもマイナーでしたがごくまとも。
地味な見た目と同じく一聴地味な音ですがスルメのごとき味わいがあります。
音を言葉で伝えるなんて自分には難しすぎます、せいぜいが「たとえるならこんな感じ」調で。
Roydはモノクロフィルム・画像というより絵に近い音
とても緻密な表現ですがカラーじゃない、白黒。
ただし陰影が濃くてなめらか。
なお、このスタイルからHarbethやLS3/5を連想されると思いますが、Roydは対照的でちょっとひんやりしたところがあります。
デジタルとは明らかに異なる・フィルムのような濃淡
現代のスピーカーといえばB&W(Bowers and Wilkins)は筆頭でしょう。
これを最新の超高画素のフルサイズデジカメにたとえるなら、Roydはほとんどモノクロフィルムです。
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一応イギリスのメーカーではありますが、もう現代スピーカーの代表として無国籍化。
なんせ北米と中国が最大のマーケットです。
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いっちゃなんですが30年前すでにジジイ趣味でした
しかしフィルムのように陰影を実にきれいに出す。
細かーく線を描きこむくせに、輪郭滑らかで何故かくっきりしております。
画像というより絵に近い色彩感の音楽
なんとなく伝わりましたでしょうか、写真というより絵に近い。
モノクロの色彩感ともいうべき音楽性。派手さはありませんが、影のある厚みと緻密さです。
音量も控えめが得意。
アーティストの気配やホールやスタジオに楽器の響きが拡がっていくのがよくわかる。
マニアでなくとも分かる音のよさとして、スピーカーのある場所とは全然違うところから音が聴こえてくるというものがあります。
Sintraはかなり実感させます。物理特性はきっちりしてる。
英国スピーカーは可愛げゼロ・Sintraの世界を押し付ける
ただスピーカーのくせいろいろ指定してくる、こいつは自分の世界を持っているのです。
最近のスピーカーにはあまりない。
アタシはド迫力のデカい音が大好きなんですが、これはダメ。
不得意では無いんですが、なんと言いますかとにかく合わない。
しかも止めるわけでもなく鼻でフッとか笑われているようで実にこにくらしい。
Roydによらずイギリスのスピーカーは大体そんな感じです。
見た目と違い可愛げはまるでありません。
田園生活風ののどかな顔ですが、ピーターラビットをイメージすると完全にアテが外れます。
(最近はピーターラビットも結構ワルになっておりますが)
なおこれでなぜかロックはお得意というのが英国トーンの不思議です。
英国人は遊びの粋を知っている
このスピーカーを聴くと、帝国が落ちぶれてもイギリス人は『愉しみかた』を知り尽くしていると心底感心します。
一見控えめ、実は享楽的・スノッブそのもの
音楽の出しかたを心得てる。
それも一見控えめですが、ストイックどころかとても快楽的な愉しみかたです。
作曲家はあまりいないくせに名ホールが多いのが英国流の遊び
たとえるなら、きちんとした店で遊びを覚えたヤツの手口です。
『粋』のなんたるかをわかってる。好きものですがヤラせてくれないとか騒いだりしません。
有名な作曲家はあまりいないくせに名ホールが多い。階級社会なのにロックの本場など油断ならん連中。しかも見た目が控えめとはスノッブそのものです。
ワーフェデールの工場を買収して始めたマイナーブランド
Royd社は英国の著名な音響メーカーに在籍していたスピーカーエンジニアが、どうしても自分のブランドが欲しくて1980年に始めた会社です。
連中が尊ぶ「果敢な挑戦」ってやつです、スタートアップなんてものじゃない。
起業の理由は「自分のブランドをつくりたい」だけのいさぎよさ
素敵な理由です、英国人らしい思い切りの良さもいい。
巷説によれば創業者のジョーアクロイド(Joe Akroyd)氏がWharfedale(ワーフェデール)の設備を工場ごと買い取って始めたとか。
本人は何も語っていません、イギリス人らしい。
わかっているのはほぼアクロイドさんの手作りだったということと、女性スタッフが1名いたということだけ。
そこから先は「らしい」ばかりで彼女はアクロイドさんの奥さんだとか違うとか。
はっきりしているのはデモで使われたのが「naim」のアンプであったことです。
創業当時すでに古かったデザイン、最後まで新技術に見向きもせず
創業当時ですらデザインはちょっと流行らない、古いかたちでした。
しかも最後まで外観にほとんど変化がなく新素材も使わなかった。
ただ音はモダンでした。偶然AE(Acoustic Energy)が全く新しい英国トーンを作り上げた時期でしたが、解像度も立体感もひけをとらなかった。
それでいてスピーカーユニットを含め(ツィーターはScan SperkのOEM)ほとんどのパーツを自社工場で作り続けたという変わったメーカーです。
創業者みずから手作り・本人引退と同時に会社もクローズ
とにかくどマイナーすぎて情報がありません、ジョーアクロイドが引退した2004年に会社もクローズしましたがその時ご当人は70歳を超えていたらしい。
英国での人気はそこそこあり、そのため会社の売り先は探したものの、アクロイドじいさんが自分で製作・調整していたためご本人不在の事業継承は無理だったようです。
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なおご参考までに、スピーカーメーカーの多くはスピーカーユニットはじめ部品を社外から調達しアセンブリーで音を競うのが普通です。
自社製造にこだわることについて、明らかな合理的理由というものは実はありません。
現在「Made in 中国以外」と謳うオーディオ製品でも、実際は箱すら含めほぼ中国での製造部材というものは多い。
EU圏内のスピーカーブランドは台数ベースでほとんどが中国産です。
一応申し上げますとそれだけ今の中国のマニュファクチュアリングはレベル上がっています。
さらに「濃い」Harbethはコテージの工房でスタート
なおこちらはHarbeth(ハーベス)というスピーカー、次にいくならこれでしょうか。
マイナーチェンジのみで30年以上一線に
Roydよりもハイエンドで、これも数十年かたちを変えないまま音だけが確実にアップグレードし続けている得体のしれないスピーカーです。
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見た目では初代(33年前)から何が新しくなったのかよくわからない
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すこしづつジリジリ良くする変態ぶり・ライバルは根負けして消えた
このブランドも新技術には見向きもしません、大幅改良も絶対しない。
でも本当に少しずつジリジリ音を良くしてくる。
いい意味で、ちょっと変態なんではないかと。
なお地味すぎて間違いなく他社からは全くライバル視されてなかったと思います。
そして創業時の競合メーカーは今その多くが存在していません。
すいません、私もこのメーカーそのうち無くなるんだろうなと思ってました。
だって創業時はコテージの物置みたいなところで作ってたんですから。
初期の紹介記事を見た人はみんなそう思ったでしょう。
努力とか精進なんてきれいなもんじゃないです、イギリス人特有の嬉しくなるような執念深さ。
不器用でも諦めない。
iPhoneがシリーズで年に2億台とか売る時代はこういうものが面白い。
英国プロダクツはダサかっこいい
英国のクルマとか飛行機なんて、エンジニアにお前変なんじゃないかって言いたくなるようなカッコのものが時々あります。
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性能は良かったそうですが、パイロット以外は後ろ向きで乗るとか。
英国風は「ダサい」うえに「理由を説明しない」
例えばアストンマーティン ラゴンダ(1976年)
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アストンマーティンの「英国調」失敗例・ラゴンダ
会社がツブれそうになったときに思いついた新型デザインがこれ。
ウィリアム・タウンズによるやっつけ仕事。
絶対かかわりたくないタイプのエンジニアです。
会社も危ないし連中なりに伝統だけじゃいかんと思ったらしく、インパネは初期のタッチパネル満載。
エレクトロニクスもジェットエンジンも一番早い国ですから、先端技術に鈍いわけではありません。
問題は発売時にパネルが動作せず、トラブル続出でほとんど動かなかったこと。
当然ながらアストンマーティンですからそもそも超高額です、従って売れません。
ますます理解不能なのは、アストンがこれを12年間も作り続けたことです。
どうもいろいろ見聞きすると「長く作っていればそのうちマトモになる」とか本気で考えていたフシがある。
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不条理が生む良さ・クルマもオーディオも音楽も
新しいものにすぐ飛びついてはいかん、というのはわかる。
でも英国人の場合はだいたい美徳になりません。
拡大解釈して「あとから直していきゃいいだろ、長く売るんだし」と居直るからです。
伝統を重んじているのか、それともただの不器用か・でもしたたか
まごまごしていると「せわしないお前がいかん、紳士たるものが些細なことで騒ぐな」とかいいそう。
言い訳はしない代わりに参りましたも言わない国民性なのです。
連中はなぜだか伝統を重んじ、しかも理由を説明しません。
「ウルセエ」みたいな感じを丸出しにします。
いかにも不快げに自分たちは直球・シンプルを目指す、小細工はしない、とかボソッと言う。
この出来栄えでよく言うぜと思いますが、不器用なようでいて肝心なところはしたたかです。
連中の手に掛かるとドジや失敗すら演劇的。
「時に倒れながらも一途に自分たちの信条を守る」なんて言っておいて、きっちり利益は確保する。
試合で負けて勝負に勝つのは奴等の得意技です。
「ダニエルクレイグ」ボンドは勝つと決めたらとことんやりぬく英国流
それと本当に彼らが目的を定めたときの底力はちょっとかなわない。
すさまじい酷評にも動じず「ダニエルクレイグ」ボンドを見事にものにしました。
しかもリブート第一作目がかつてコケた「カジノロワイヤル」です。
これでも関係者は至って大真面目なんです。
参りました、もう好きにしてと言うしかない。
普通は安全をみてゴールドフィンガーとかロシアより愛を込めてとか選ぶでしょ。どこまでひねくれれば気が済むのか。
とにかく手際は決して良くない、でもあきらめない。そしてしたたか。
胸のすくような見事さがある、連中ならではです。
なお上記のラゴンダと同時期にDBS Vantageを作っていた。
同じ工場でこんなかけ離れたもんを同時に作れる神経もどうかしてますが。
ボンドカーではDB5よりも好きです。
ジョン・ルーサーのアリスがDBS乗り・キュートなサイコパスにぴったり
と、ここでハッと気づいた。オーディオとは何の関係もありませんけど。
「刑事ジョン・ルーサー」の一番人気アリス(ルースウィルソン)が乗っていたのってDBSじゃなかったかしら(シーズン3・EP4)。
彼女のDBS(と思われる)がこれ。もしかしたらインターセプターかもしれませんが画面からはよくわからない。
ちょっと武骨で、しかも作中モデルは微妙にストレッチしてあってシューティングブレークのような。
キュートなサイコパスにぴったり、英国プロダクツにはただの武骨だけでない粋がある。
ヴィヴィアンウェストウッドやジョナサンアイヴを生む「階級社会」
伝統と云や格好はいいですが、つまり大ブリテンは不条理だらけの社会です。
見えないルールでがんじがらめの社会がとんでもないクリエイターを生み出す
貴族院がある国です、毎年なんらかの”Class Survey”(階級調査)をしてるほど。
日本の学歴信仰が可愛く見えるほど、ガッチリ価値観に入り込んでおります。
目に見えないルールでがんじがらめのこの社会から、いきなりとんでもないデザイナーが出てきたりしますからわからん国です。
ジョナサンアイヴやヴィヴィアンウェストウッドとあの階級社会はなんとも繋がらない。
でももしかしたら不条理があるほうが本物のクリエイティビティが生まれるのかも。
英国ブランドの服みたいなもんです、連中はモードのなんたるかを知り尽くしているくせに全面的に取り入れようとしません。
アイテムは一見ダサそうに見せて、コーデできっちりおしゃれに仕上げてくる。
B&Wですら一皮むけば不条理
例えばB&Wはもう無国籍化して英国スピーカーなんてカテゴライズができないほどモダンでおしゃれです。
デザイナーのモートンウォレンなんてもう何をやらせてもスマートそのもの。
イギリス人が「新技術」を簡単に信用するわけがない
と思わせてやっぱりイギリス人であります。
よくよく見ればやっぱりちょっと不器用で、でもやるときはやる。モノにするまで頑張ります。
なお800D4シリーズを英国内で作るのは、きっとアッパークラスが使うものとでも思っているからでしょう。
しかも海外の記事を見ると面白い。
プレスの取材に対するはぐらかしは独特のものがあります。
B&Wでいえばコンティニュアムコーンのこととなると本当に口が堅い。
アタシはありゃ絶対身近なものを利用した材料だと思っております。
なんせイギリス人です、連中が新素材なんぞ簡単に信用するものですか。
技術志向イメージのKEFだって同軸スピーカーは80年台からやっている。
いろいろ言われてきましたが2020年代の今、遂に完成の域です。
エントリーからミドルクラスではB&Wをおびやかす性能。
とにかく英国スタイルはこうと決めたらあきらめない、KEFもまた実にいいスピーカーです。
なりは小さいスピーカーが油断ならない色の濃さ
オーディオはそれなりにいろいろ使いました、今はちょっとこぢんまりしております。
ここ数年仕事で転居が多いこともありデカいのは扱いが面倒でした、引越で騒ぎになる。
初代Sintraはするりと入り込んできた・不条理が生む音楽表現
小さいスピーカーは気が楽です、それでつい手が出ます。
こういう条件に英国のオーディオ製品はするりと入り込んでくる。
実をいえばSintraも買った理由をよく覚えていない。なんかちょい聴きで悪くねえなあとずっと思っていたとか、その程度だったような。
別途書きますがいろいろとつじつまの合わない作りをしています。
しかもそれをていねいにやるという頑固さにもう笑ってしまう、ついでにいえば音がいい。
居座られてしまうはずです。
笑って油断して聴いていると音だけではなく、いつのまにか音楽の好みも変えられてしまったりします。Harbethなんてそれが嫌で今まで手を出さなかったようなもの。
一見控えめな、しかし相当なしたたかもんです。