渡辺謙が吹き替えしたランボー(第一作・1982年)は4K Blu-rayのみながら視聴可能と知りました、パッケージ化されないだろうとあきらめていたので驚いた。
実は「一番最初に吹替されたランボー」は彼、1985年です。
たぶん地上波放送(アナログ)の頃数回やっただけのはず。
しかし屈指の名吹替です、未見の方につよくお勧め申し上げます。
日本人の何%かはこの作品の「ラスト10分」でグッとくる人がいるんじゃないかとかねがね思っております。最初のランボー吹き替えにして名演技。
強烈なランボーのイメージ・(何故か)若き渡辺謙が一番最初の吹替担当だった
きっかけはこのTwitter、我が目を疑った。それほどマイナーな吹替です。
ランボー「2」を子供の頃観た世代であります。
「コマンドー」のシュワルツネッガーと並んでシルベスタースタローン。
アタシの世代はみんなあの筋肉に夢中になった
ロッキーになりたくて片腕腕立て伏せにチャレンジ
全員顔面から落ちてました。
ランボー2「怒りの脱出」とシュワルツェネッガーで浮かれていた子供が無言になった「渡辺謙ランボー」
まだレンタルはビデオ、しかも1泊600円ぐらいの大昔、TVで「ランボー」がやると。
「ランボー2」は字幕だったのでかなり興奮していました。
そしてワクワクして観たスタローンは
- 全編ほぼ無口
- ヒーロー感ゼロ・無敵というより殺伐としている
- ストーリー全体、というよりもう画面からして寒くて暗い
なんか悲惨っぽくて(まだ子供です)でも目が離せないところに
問題の「ラスト10分」が始まった。
泣きそうになりました。
寡黙と激情のスタローンを見事に演じ分けた無名時代の渡辺謙
それは子供が期待した「無敵のヒーロー」ランボーではなかった。
映画自体がリアル社会派でそもそも子供向けじゃなかった上に「吹替の演技」が相当にダークだったからです。
はるかな後年、つまりネットが普及してから
あれは無名時代の渡辺謙(1985年)が声を当てていたと知ってたまげた次第。
ささきいさおや羽佐間道夫の明るい声じゃない。
とにかくあまり聞いたことがない絶望感100%の声、無論ヒーローイメージはゼロです。
渡辺謙が全国区で売れ始める前の仕事、無名です。どういう経緯で渡辺謙にお鉢がまわってきたのかもわかりません。
NHK「独眼竜政宗」が1987年です。連続テレビ小説「はね駒」(1986年)よりも前の1985年。
本人がこの仕事に何を思って臨んだのかもわからない、ただその演技は見事の一語につきます。
スタローンの演技をアップグレードした名吹替・ゴジラとピカチュウだけじゃない
先に申し上げると本作(ランボー1)限定で、シルベスタースタローン自身の演技もプロットも珍しく評論家スジから評価が高い。
寡黙と激情を同時に表現した名演技と思っていますが(アタシはシリーズ全て素敵に思ってますけど)、
渡辺謙のセリフと言いますか「叫び」
何もわからない子供心にこれが響いた。
「なにも終わっちゃいねえ、なにも」
「オレにはシャバの人生なんて空っぽだ」
「アイツ『おれうちに帰りてぇ、うちにかえりてえ』ってそればっかりだった」
それまでほぼダンマリを決め込んでいたランボーが堰を切ったようにしゃべり始め、遂にはしゃがみ込んで泣きじゃくる。
それを無言で見つめながらリチャードクレンナ(トラウトマン大佐)が聴いてやるわけです。
子供心にも「この人はずっと我慢していたんだ」と重く響いた。
これを10分間で完璧に表現します。
スタローンと渡辺謙の演技は、小学生にさえベトナム帰還兵の苦悩を完璧に伝えきるものでした。
ピカチュウとゴジラだけではございません。
字幕派でも吹替で見たい映画がある
日本は映画の楽しみかたとして「吹替」ジャンルが成立しているわりと珍しい国。
吹替によって原作より価値が上がったのではないかと思う作品もあります。
海外は実用としての吹替・「男はつらいよ」渥美清のロシア・イタリア版も普通
アタクシは字幕派であります、特に映画は。
セリフも演技のうちだからできれば本人の声で観たい。
いっぽうで海外では映画は吹替が普通です。
単純に字幕を読むことは好まれない、日本ほど文化としての外国語に興味を示しません。
実は字が読めない人も結構います。
だから「男はつらいよ」もイタリア語やロシア語で上映される。
渥美清の切れ味のいい江戸弁を英語やロシア語・イタリア語(ほんとにある)のセリフでどんなふうに感じるんだろ、とかねがね不思議でありますが。
なおどの国でも寅さんは笑うべきところで笑ってくれたそうです。
日本は「吹替」という独自の楽しみがある国
一方で日本は「吹替」というジャンルが映画として定着している国であります。これちょっと珍しい。
それだけ吹替声優の演技力が高いのです。
それと言葉。
初見のアメリカ人から「日本人?ああ、あの響きのいい言葉ね」と言われ(まあ狙って言ってきやがったんですが)つい酒をオゴったことがあります。
まあ殺し文句ですわな。しかし欧州人からも同じようなことを言われたのでそういう評価があるんでしょう。
「日本語がもつ言葉の響き」プラス「声優の演技」
これが字幕付き映画にはない魅力になる。
歌舞伎や時代劇の伝統かも・野沢那智、内海賢二、山田康夫、池田昌子ほか多数
野沢那智「アルパチーノ」「ブルース・ウィリス」
山田康夫「クリントイーストウッド」
池田昌子「オードリーヘプバーン」
最近ですとジェームズ・スペイダー(THE BLACK LIST)の大塚芳忠は渋い語りであります。
なんていいますかね、歌舞伎や時代劇のセリフ回しに近いとでもいうのか。
言い得ない味わいがある
徳川夢声や広沢虎造以来とでもいうべき「語り」のスキル。
本物の「芸」です。節回しとでもいうんでしょうか、素人ながらあのへんにルーツがあると勝手に思ってますが。
コメディーだろうがシリアスだろうが、格段に味わい深くなる
例えば「吹替の帝王」シリーズにある作品の数々。
そしていまだパッケージソフト化されていない内海賢二の「艦長(Uボート)」(フジテレビ版・1983年)
これなんざ、もう条件反射してしまう人がおられるのではないかと。
版権とか難しいのでしょうか。パッケージ化されていないのが本当に残念な、一番観たい吹替です。
リマスターされていなくともきっと買うでしょう。
ランボーシリーズの異色作、「1」は完璧な社会派ドラマ
なお「ランボー映画」という言葉があるぐらい、このシリーズは知性のカケラもない作品というイメージがあります。
ランボーシリーズの「駄作」イメージを変える渡辺謙の吹替
ファンのアタシとしては面白くありませんが、自分自身のインテリジェンスも考えると、まあ一部は当たってる。
英語でも「Rambo」という表現は慣用句になっていますが、良い意味がありません。
もっと派手なアクションを、とばかり爆発・暴力シーンだけ。
作品は毎回R指定を受け、特に「2」以降は批評家がまともに取り合わなくなり、ラジー賞には必ずノミネート。
アクションしか理解できない頭の悪い観客が爆発を見て喜ぶ映画と思われているわけです。
うーむ、長いあいだそれに言い返せなかった。
でもランボー1の、しかも渡辺謙がアップグレードしてくれた名作が今あります。
これを観ていただけませんかと。
第一作はベトナム帰還兵の苦しみを全力で演じた作品・「ランボー映画」とは違うもの
「ランボー」シリーズはスタローンがアカデミー賞に縁のない俳優となった最大の原因といっていいでしょう。
でも第一作のみ違います。これは完全に違う作品です。
ベトナム帰還兵の苦悩を描くという、当時(1980年代)アメリカの大問題を真正面から映画にした。タブーに近かったテーマです。
しかも社会不安の原因と忌み嫌われていた帰還兵を町で大暴れさせる、ある意味大変なストーリー。
売れてなかったスタローンが脚本からセールス・編集まで関わった作品
これが企画段階では大物俳優が前提でありながら、次々に出演を断られた一番の理由であります。
アメリカの俳優は支持政党や宗教観を公表するほどパブリックイメージを重要視します、これはやらない。
宙に浮いていた企画にロッキー以来伸び悩んでいたスタローンが自分を売り込み完成させたいわくがあります。
脚本にも関わり、配給会社へのセールスから自分で尺の再編集までやった労作です。
彼はベトナム戦争や帰還兵の問題についても高い関心を持っており作品にも大きな影響があったとか。
あの「ラスト10分」の理由です。
第二作「怒りの脱出」も海外では真面目な社会現象だった
なお、これは贔屓でなく事実として申し上げたいのですが、公開時のランボー2「怒りの脱出」は日本で言われているほど程度の低い扱いではありませんでした。
完全にバカ映画路線になった嚆矢と常識のごとく語られる「ランボー2・怒りの脱出」ですが、海外では相当大きな社会現象でした。
劇場で泣き出す行方不明兵の母親が続出して大混乱
80年代当時、ほとんどの日本メディアがベトナム戦争を賛美する映画として批判した本作。
当時のレーガン政権が日本のマスコミのお気に召さなかったこともあり、本国の状況はその後報道されていません。
いくつか簡単にいうと(公開当時リアルタイムで報じられた話であります)
- アメリカでは「息子は生きているはずだ」と上映中に泣き出すお母さんが続出し館内が大混乱
- (確か英国)ランボーそっくりの格好をした数十人の若者が映画館に乱入して逮捕。なお理由は「興奮してついやってしまった」そうです。
- ソ連では許せん映画ということで「The Detached Mission(デタッチド・ミッション)」というソ連版ランボーを急いで制作(1987年または1988年 ※諸説あり)
(原題「ОДИНОЧНОЕ ПЛАВАНИЕ」※アタシャ読めません)
ソ連版ランボーは日本でも公開された・メディアではわりと高評価だった
ネットがない時代、大手新聞の文化欄は今よりもはるかに格が高かったのですが、面白かったのは新聞の批評記事で「デタッチド・ミッション」はそこそこ悪くない評価だったことです。
アタシが読んだのは最終の文化欄でなく、中頃の紙面に片側一面の記事でした。
扱いがデカかった、どうやら日本公開もされたらしい。
当時アタシの家は商売上の付き合いから、ほとんどの主要新聞と聖教新聞・赤旗までとっておりました。
それで子供のくせにいろいろ読めた。
確か毎日(もしかすると朝日)新聞だったと思いますが、
- 暴れるばかりのランボーとは違い、戦争の悲惨さを伝える作品
- 主人公が死ぬというラストにただの戦争映画とは違う奥深さを感じさせている
とかいう批評でした。
バズーカ砲みたいなもんの狙いをつける主人公らしき写真がついた記事で、文章も長かった。
すでにソ連のアフガニスタン侵攻が行き詰まっている報道が大々的になされており、何よりランボーが面白かった子供心には、ピンときませんでしたが。
映画の批評よりもメランコリックに反戦を訴える書き方があんまり気持ち良くなかったことも覚えております。
なお今や珍作の扱いとか。本作を観た方の貴重なレビューがありますが、単純に「デキが悪い」らしいです。
娯楽の少なかったソ連でさえあまり人気がなかったらしい。
今や幻の作品扱いで、海外で少数のみ流通したビデオは希少価値とか。
最近ランボー2サントラのフルVerが配信で聴けるように・厨二病必聴
すいません、タイトルで既についていけないという方もおられるかもしれませんが
ランボー2のオリジナルサウンドトラックはAmazon Musicで聴ける。
それもフルバージョンです、素晴らしい。
ここが重要で、実はアタシCDを持っていますが、収録されていない曲があるんですよ。CDよりも配信が充実しているという珍しい例です。
どうです、このバカ丸出しのアートワーク、嬉しくなるひどさ。
まさかと思ったら全曲収録版でした、音源が残っていたことに感動しております。
音楽配信はCDのコピーを流しているわけじゃないという証明でもある。
昨年までAmazon musicにはなかった・ラストブラッドの影響か
ラストブラッド公開の影響でしょうか。
少なくとも去年までPrime musicにはなかった、いっちゃあなんですが我ながらランボー関連だけは他人様に遅れをとらないと言い切る自信があります。
ここで気づいたのですが、つまりアタシはこのジャンルを定期的に検索しているらしい
自分の年収が低い理由がなんとなく理解できた。
それはさておき聴きどころは以下です。
- 拷問した敵をブン殴って脱出 No.17 Escape From Torture
- イイ雰囲気になったお姉さんのお墓を作っているうちに怒りが頂点に達した No.19 Revenge
- 最大の悪役(スティーブン バーコフ、ワル中のワルです)をヘリごと始末した後、基地に帰る時のNo.23 Pre Lift Off /Home Flight
このあたり必聴、ヘッドホンで聴けば脳内ジャングル直行であります。
なおアタシはサントラが大好きでして、ジェリーゴールドスミスとハンスジマーなんて必ずプレイリストに入っております。
サントラはいい、「なり切れる」。
中年にしてひそかに厨二病全開、やっぱりランボーが似合ってるIQかも。
シルベスタースタローンが俳優としてトッププロである理由
書いたついでです、数十年趣味として映画を観てきたものとして申し上げましょう。
「シルベスタースタローンは当代随一のアクターにしてトッププロ」です。
これファンとして一回は申し上げたかった。
「スタローンが?お前バカじゃないの」という方、まずはこれをご覧ください、65歳です。
そして現在(75歳)
「天職」と言い切る・並外れた努力でラストブラッドを制作
75歳でこの身体、そして「ラストブラッド」を制作。
極悪非道のメキシコ麻薬カルテルの皆さんを元気に皆殺し、代役なしのリアルファイトであります。
いや、アタシもねメタボっていわれて筋トレまがいのことをしているわけです。
だから痩せなくとも大変さはわかる。
どんな高額のトレーナーつけても(ハリウッド相手は相当の高年収です)、この身体は無理です。
本人に相当強い意思力がないと
何十年も継続して高負荷のトレーニングと生活管理を続けないと
そしてスタローンは下積みがエラく長かったのです。
だからスライ(スタローンの愛称)はファンサービスに熱心で知られています。
皆様のお近くに居られる60代・70代で、仕事に必要という理由からこの身体に近い人いますか?
アタシは間違いなくこうはなれますまい。今やっていることのプロでなし、そもそも「天職」ではないからです。
アカデミーから限りなく遠かろうが
毎回酷評でラジー賞だろうが
ランボー専門だろうが
75歳にして今を天職と言い切るシルベスタースタローンはトッププロの俳優です。
ベテラン・名演技の吹替は「映画として」ジャンルを確立している
それはさておき
「吹替の帝王」なんて企画が成り立つほど、日本のベテラン声優による吹替はレベルが高い。
誇張でなく作品の質を上げております。
その中でも若い頃の渡辺謙による吹替は出色の出来かと。
4k Blue-rayやSACDにありがちな今後の希少価値なんてセコい理由でおすすめするのではございません
繰り返しますが「ラスト10分」
映画から感じる人にはズシンとくる重さであります。
というわけで
吹替:渡辺謙 ・「ランボー」
4k Blue-ray レストア版
名作であることは確かですから、未見のかたはぜひ一度ご覧になってみてください。かなり衝撃的だと思います。
「見物客として」アイドル・タレント芸人の吹替はやめてくれ
ここで最後に映画ファン、というより「見物客」として申し上げたい。
- アイドル・タレント
- 実写ですら演技力のまるでない俳優
- お笑い芸人
この人たちの吹替はもうやめてほしい、聞くに堪えない。
「芸」と呼ぶことすらおこがましい。
三流芸の吹替は作品の質を落とす
全て、繰り返しますがすべての吹替が学芸会かそれ以下のレベルです。
元の作品の質が落ちる、観る気もなくなる。
アニメを観ないのでそちらがどうなっているのかほとんどわかりませんが、かつて専門の声優はトレーニングなどそれは厳しいと聞いていました。
そりゃ徳川夢声に続く職業ですから、プロになるには才能と厳しい修練が必要なはずです。
今はアイドルのようにもなったとか聞きますがその辺は詳しくありません。
ただ歯医者さんの待合室で観るハメになったディズニー
あれは酷かった
素人芸の吹替でした。
歌もどうしようもないレベル、オーディオ的にいえばそもそも声と曲の音程が合っていない部分がある。歯の痛みと同じ苦痛でした。
テレビがそうですが三流の芸ほど見るに耐えないものはない。
パッケージメディアを買うとは「木戸銭を払っている」こと・見物は芸の良し悪しを遠慮なく指摘するべき
なぜこのようなことを申し上げるかというと、間違って買ってしまうからなんです。
吹替の情報は通販も現物も表記が少ない。
うっかり買いがままあるもので、大変に迷惑です。
BDやDVDは封を切ったら返品できません。
あんな連中の吹き替えならいっそのこと字幕だけのほうがいい、価格も少しは安くなるでしょう。
パッケージメディアや配信で観ようという人はいわば「木戸銭」を払って観るに同じ。
無料のテレビ放送とは違います、三流芸にはそのぐらいのことは言っていいと思います。
ドサ廻りは配信専門にせよ・BD、DVDプレスなど環境破壊
「ドサ廻り」という言葉があります。その昔売れない、才能のない芸人が稼ぐ手段とされていました。
物理的にまわって歩く必要はない、どうしてもファン向けに売りたいなら配信チャンネルでも作ってそこでやって欲しい。
ネットに数時間の動画を流すのも簡単な時代です。わざわざBDやDVDをプレスするなんてほとんど環境破壊であります。
こんなことを申しますのは、繰り返しですが渡辺謙ランボーがそうであるように吹替の名演は作品の質を高めるからです。
実際海外ドラマの吹替は今でも優れたものが多い、プロの声優による仕事だからでしょう。
吹替で観ることが多いほどです。
同じくプロの方々にまかせればいいものを、映画となった途端に芸人を使いたがるのは迷惑千万です。
話がそれた、ともあれスタローンはいい。殊に渡辺謙は出色です。
未見の皆様、ぜひ一度ご覧になってみてください、まさに名調子であります。