Bowes and Wilkinsのスピーカーはどこの国で作られているのか?よく聞く疑問です。
はっきり申し上げます、英国と中国です。
ただし、この生産地にこだわる話は同社のスピーカーの品質を判断する上で無意味といってよいかと思います。
今回いろいろと調べてわかりましたがここの品質管理はそんな会話とは別の次元です。まるで超優秀な日本企業のよう。
スピーカー生産は英国と中国の2カ所
英国と中国でどんなスピーカーを作っているのか。具体的にいえば、
◎ 英国工場 :800シリーズとオリジナルノーチラス
◎ 中国工場 :上記以外の全てのスピーカー
中国では同ブランドのアンプ(日本未展開)も作っているようです。
スピーカーの生産能力は非公表だが
正式な発表はされていませんが、製造が英国限定だった2000年代初頭で50万台/年の販売実績があったとか。
同社が英国でも優秀な企業のひとつに数えられるゆえんです。
中国・珠海工場は設立時の発表では21万台/年を目指すとしていました。ここはEVA破産でかなり変わっている部分じゃないかと思います。
生産地の変化についての簡単な歴史
その生産国ですが、英国のみで生産してきたのは2002年までです。
2003年からは買収したデンマークの家具工場を買収・製造展開しています。まずEU域内で生産地を探した。
確認できる限り本格的な中国生産が始まるのは2005年から、ただし生産委託に近い方法でした。
自社資本100%の中国子会社を作るのは2012年です。
地域としては一貫して広東省 珠海(Zhuhai)。
- 1982年 SMEから現本社屋(Steyning)となる工場を買収
- 1996年 Joe AtkinsがCEO就任(Equity International, Inc. )
- 2001年 DalelordからWorthingへ工場移転
- 2003年 デンマークLudvigsen Møbler社を買収(キャビネット生産)
- 2005年 Rotel社の珠海工場内に専用ライン新設
- 2009年 デンマークの自社工場を閉鎖
- 2012年 Bowers and Wilkins Tradingを中国(珠海)に設立
- 2016年 珠海工場設立(B&Wによる100%出資) ※同年TVA AutomationがB&Wを買収
なおデンマーク工場は初代ノーチラス801製造における重要な工場と報道されていましたが、実際にはコストがあわず2005年以前から部分的に中国への製造委託が行われていたとのこと。
Rotel社の中国工場でスピーカーを生産し続けた(16年間)
面白いのは2005年の中国工場はローテル(Rotel)のラインを利用したこと。その後長期にわたって中国生産の中心となっています。
ローテルはアンプメーカーそして海外ではB&Wの販売ディーラーという位置付けで紹介されますが、本格的な中国生産を始めるにあたって、ローテルの組織と現地設備は必須だったようです。
TVA Automation期に大幅な強化(2016〜2020年)
2017年には中国に自己資本100%の工場が本格稼働を開始しました。最初に生産された製品は「700S2」です。
EVA Automationが同社を買収(2016年)した翌年のことですから、その後かなりの投資が続いたようです。
また本格的なアンプ生産のラインも計画されていたそうです、目的はEVAの生死を決めた「Formation」シリーズだったと思いますが。
英国生産は800シリーズとオリジナルノーチラスの2種
800D4発表にともないWhat Hi-fiではかなり詳細な製造現場のレポートをしてくれています。興味深い内容です。
Via “Inside the Bowers & Wilkins factory to see the new 800 D4 speakers”(What Hi-Fi? official website https://www.whathifi.com/features/inside-the-bowers-and-wilkins-factory-to-see-the-new-800-d4-speakers)
英国内工場は英国内の複数拠点へ拡大を続けたのち現在はサセックス州ワーシング(Worthing)に集約されています。
旧本社工場はR&D部門として活用されているとか。
組み立て・塗装が主、つまりアセンブリ作業・部品は外部業者から調達
工場での作業は大まかにいえばこんな感じ
- キャビネットを生産
- 塗装
- 組み立て
- 品質チェック
上記には部品を製造する工程はほとんどありません、ごく一部の重要パーツを除き外部業者で製造・調達です。外部というのは英国そして世界中を指します。
つまり基本的に「assembled in England、またはChina」
方針として正しいと思います。部品調達先は世界各地から、そのほうがいい部品が集められる。
最終製品として全部を「made in England(あるいはJapan)」というものは高品質とは少し違うというのが今の製造業です。
ダイヤモンドツィーターの振動板は「婚約指輪は給料3ヶ月分」のデビアス
ダイヤモンドツィーターに使われる振動板はデビアス(The De Beers Group of Companies)製造。
つまり世界第2位のジュエリーメーカー、「婚約指輪の値段は給料の3カ月分」のアレです。
同社はバークシャー(Barksher)に人造ダイヤの工場(というよりラボレベルの規模)を持っており、そこで生産されています。
Via “De Beers to sell diamonds ‘grown’ in Berkshire laboratory”(Guardian News & Media Limited official website
https://www.theguardian.com/business/2018/may/29/de-beers-sell-synthetic-diamonds-grown-berkshire-laboratory)
無論工業用の合成ダイヤでありCVD(化学蒸着法)で作られた炭素結晶です。
厚み40μmで本来の色はグレー。
そこにさらにプラチナコーティングされた上で納入されます。
これ1個いくらなんでしょう、調べたら(記者からのそんな質問にイギリス人が本当にマジメに答えたのかどうかは別にして)わかりました。
500ポンド(1個あたりの納入価格)、つまり現レートで¥75,000ってことでしょうか。単一の部品としては相当高価です。
仮にですが、一個でも、それこそ箱ごとでも仮に落っことしたらどうなるか。
似たような高価な部品で実際にそういうトラブルをみたことがありますが、作業者の方は貧血を起こしてその場で倒れてしまいました(アタシももう少しで倒れそうでした)。
そういうものを購入している、B&Wではこれにボイスコイルを巻く工程からスタートします。
ネットワークはムンドルフ
ネットワークは素子単体ではなくムンドルフによる製造済みのモジュールとして入手しているようです。判明しているグレードは以下
- 801D4 :Mcap Silver/Gole
- 802D4 :Mcap EVO
- 803D4 :Mcap EVO
コンティニュアムコーンは完全内製・ただし完全社外秘
ここが重要ですが、コンティニュアムコーン(Continuum cone)は内製、ただし製法はプレスに対して一切公表されません。
これはD3の頃からそうです。
数年分の記事をひっくり返しましたがどの関係者も「うーん、ケブラーはやり尽くしたから・・・まあ新しい素材かな」ぐらいしか言わない。
コンティニュアムコーンについて海外の情報を漁ると皆さんが「Whitepaper(技術仕様の説明書)が全然無い!」と嘆いておられることに気づきます。
登場から6年以上経ちますがB&Wはどこまでも隠し続けるつもりのようです。
今回のWhat Hi-fiのJoe Cox氏の取材でも同じような対応です。ラインも見せず素材も製法もわからない。
記事中に
“ “So you’re not just using PVA glue from B&Q?” we ask as we watch the manufacturing process. It seems not…”
Via “Inside the Bowers & Wilkins factory to see the new 800 D4 speakers”(What Hi-Fi? official website https://www.whathifi.com/features/inside-the-bowers-and-wilkins-factory-to-see-the-new-800-d4-speakers)
という記述があったときは「おっ!!」と思いましたが、これはジョークらしい。そこいらへんで売ってる接着剤や樹脂を使っているわけじゃないんだよね、という。
しかしどんな素材でどんな作り方なのでしょうか。オーディオ分野では未知の新素材なのか、それとも「・・・まさかだろ」という意外なほど身近なものなのか。
アルミとかポリプロピレンとか英国人はコンベンショナルな素材を工夫して使うのがとても上手ですから。
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外注品質の管理は厳重
なお外注パーツが多いことに失望する方もいらっしゃるかもしれません。
個人的には管理の面こそすごく重要だと思っています。具体例を挙げるとネジのような細かいもので使用数10個につき1個を抜き取り検査です。
同じような管理をしている企業を実際に見たことがありますが、無茶苦茶コストがかかります。
すごく高品位な管理です。
下手な内製は質的に全く及びません。
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800D4シリーズは「重要な部品」を中国から調達
なお全部が欧州生産の部品を使っているわけではない。どころかかなり重要なパーツを中国で製造し、輸入しているとはっきり公言しています。
改めて申し上げますが、800シリーズ向けの部品のことです。
“Some specialists items”とされています。
以下は個人的な予測です、当てずっぽうですよ。
タービンヘッドあたりかもしれません。つまり主要なアルミ加工部材を中国から入れているかもしれないと。
D4で大幅に使用部分が増えたアイテムです。
アルミ切削製品の分野では中国の生産能力は他国を圧倒します、iPhone製造のおかげで金属を高精度で切削する工作機械(マシニングセンター)があふれかえっているからです。
機械の性能が精度を決めます、恐らく同様の最新設備は英国内には少ないでしょう。
高精度の切削パーツが欲しければ(そして管理ができる体制があるなら)中国がいいかと。
多分700シリーズ向けコンティニュアムコーンなどは英国から中国に支給しているはずですから、B&Wの調達体制はかなり規模が大きいと思います。
部材の面からみると全てのシリーズが英国生産とも欧州生産とも、もしかしたら中国生産とも言えるかもしれない。
ここまでの仕組みを作るのはかなり見事だと思います。英国人はやっぱり貿易が得意なのかしら。
B&Wの製造について、英国編と中国編の2本立てにしようと思いましたが、さっと流しても情報のボリュームがありすぎて書ききれない。
英国工場での実際の作業については次回に。
すごく感心したのは、「製品のハンドリングは素手が基本」というところです。
日本の製造業でゴハンを食べてきた人間としては相当リスペクトする作業内容です。
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