地味ながらとてもいい音を聴けたのがAIRPULSE「A300 PRO」であります。
改めてフィル・ジョーンズが作るスピーカーは「リアルオーディオ」だなと。
名設計者です、どうしてこの男が触ったものは何からなにまでこうなるのか。
彼は90年代初頭にコンパクトスピーカーの低音表現を変えた人物です、以降現在のB&Wを筆頭に、DALI・MONITOR AUDIO・KEFなど名だたるスピーカーが模倣する流れをつくりました。
真面目な話、これを上回る音を単品オーディオコンポで組み直すと可愛げのない金額になります。
- デスクトップスピーカーのはずが完全なピュアオーディオ
- アクティブ・ワイヤレススピーカーで完璧な「フィル・ジョーンズ節」
- AIRPULSEのおかげで「中古のフィル・ジョーンズ」を探す必要がなくなった
- メーカー、製品が違っても同じ・黒い低音と繊細な高音
- アコースティックエナジーAE-1で小型スピーカーの低音を変えた
- 才能の代償は世渡り下手・契約がらみで訴訟沙汰も
- AIRPULSE A80の濃さは絶品・あの値段であの音は出ない
- スピーカースタンドはIKEAの椅子・スツールで充分(というか高音質)
- ワイヤレスで「濃く聴ける」のが嬉しい
- Lumia1 (Sonus Faber)やF500(Fyne Audio)はスピーカー以外のシステムで大予算
- AIRPULSEで落ち着いて欲しい・放浪癖があるので
デスクトップスピーカーのはずが完全なピュアオーディオ
結果としてAIRPULSEを通った音楽はすべてが濃く、繊細になる。デスクトップのPCスピーカー向けどころではない。
しかし申し上げるべきは、これがアクティブスピーカーだということ。
それもデスクトップ向け。
本来はスマートフォン・PCのサウンドアウトプット用「デバイス」のはずでした、ピュアオーディオの文脈ではないはずです。
アナログ入力はあるものの、インターフェースはUSBかワイヤレス(しかもBluetooth)。
デジタルアンプ内蔵のパワードスピーカー。
USB /光/Bluetooth・本来はテレビやパソコン周辺機器カテゴリー
デスクトップで使うBose・Anker・JBL・SONYのBluetoothスピーカーと同じカテゴリ。
この分野は激しい競争ゆえにお買い得です、音がよくて安い。
特に上記のブランドはたいへんよろしい。
サウンドバーやPCスピーカーはピュアオーディオとは本来違う
ただ、いわゆるサウンドバーやPCスピーカーのようにテレビやパソコン周辺機器カテゴリー。
当然ですがピュアオーディオ、いわんやハイエンドとはかぶらない世界です。
売り手も買い手も単品コンポーネントとの比較はしない。
なにしろ入力がこれです、USB /Optical /Bluetooth、おまけでアナログ。
完全にパソコンやスマートフォン・液晶テレビとの組み合わせ前提、つまりはデジタルガジェットです。
デジタルガジェットで色濃く「音楽表現」
しかし凡百のデジタルガジェットとはあまりにかけ離れた音に驚かれると思います。
他機種と比較検討されるかたがおられたら、AIRPULSEシリーズについては安心してこう言える。
「ピュアオーディオで比べてください」と。
迷う必要がないほどわかりやすくリアルオーディオですから。
なおサンプリングレートは192KHzまでの入力で、しかもUSBチップはXMOSでありますからハイレゾです。
しかしいわゆる高音質というレベルを超えて「音楽表現」の領域に足を踏み入れている。
冒頭単品コンポでA80同等を出したいなら高価になるとした理由であります。
普及価格帯のオーディオコンポは、量産効果のおかげで良質な部品を載せることができます。
一部のマニアから思われているよりもはるかに音はいい。
しかし「設計者の音楽への解釈を反映した表現」なんてものはさすがにありません。
知る限りAIRPULSEだけはちがいます。
A80は堂々のメインシステム・太く、ソリッドなミューカリティ
例えばエントリーグレードのA80、安いです。
しかしバランスがよく解像度が高い。何より「太く・黒く・ソリッドな低音」を恐れ気もなく再現する。
いわゆるPCスピーカーとはまったく違う、堂々のメインシステムの音であります。
これが設計者であるフィル・ジョーンズの腕前。
音に関する限り、(誇張ではなく)これまでただの一度もファンを失望させたことがないというフリーランスのオーディオ設計者です。
彼の得意技である
- ストロークの大きいメタルコーンの小型ユニット
- リボンツィーターによる緻密な高域
他社なら破綻する組み合わせで、得意の繊細かつダイナミックな表現を出してしまった。
この男には才能があるのです。
天賦の資質をもつものにありがちな欠点も持ち合わせた、実にユニークなキャリアについても後述します。
リボンツィーターでソリッド・パワフルに聴かせるA300
A80だけでなくAIRPULSEは全機種でリボンツィーター、トップエンドのA300はこのユニットの特徴をさらに発揮してきます。
小さなメタルコーンというウーファーの素性からすれば異質なもの。
しかしなじんでいる、どころか独自の世界観になってしまっている。
繊細ですが、だからといってはかない、幽玄・ホログラムのごとき世界ではございません。
アグレッシブ、ダイナミック、「ほんとに小型スピーカーかよ」てな表現です。
実はフィル・ジョーンズのキャリアにはこの言葉が常についてまわります。
アクティブ・ワイヤレススピーカーで完璧な「フィル・ジョーンズ節」
なお最初に申し上げますとアクティブスピーカー(パワードスピーカー)には弱点があります。
一部の極めて高価なスピーカーを除き、ピュアオーディオでは傍流とされる弱点です。
アクティブスピーカーは本来高音質になれないはず
内蔵できるアンプはどうしてもたかの知れた小型のものになる。
この機種の場合DAC(DAコンバーター)さえも内蔵。
設置は簡単ですが、
アンプも小型しか載せられない、しかも微小な音楽信号を処理するDACがスピーカーの振動をもろに受ける。
悪いことだらけです。
利点を挙げるとしたら
- スピーカーユニットの特性に対してアンプの特性を最適化出来る
- アンプからスピーカーまでの信号経路が最短
ぐらいしかない、普通は。
A300Proの「低音」はフィルジョーンズの得意技・太くソリッド
ではA300 Proは。
実に音楽のスケールが大きい、悠々たるものです。設計力とセンスがネガティブポイントを軽く上回っている。
実際に聴かれたらほぼ全ての人にわかりやすいと思いますが、スピーカー内蔵のミニアンプで駆動しているなんて思えないはず。
30年前、彼の出世作であるAE-1を聴いた人たちも同じく「コンパクトスピーカーとは思えん」と口を揃えました。
しかしながら緻密、精緻。
迫力で押し切るようなスピーカーじゃない。
どのメーカーで、何を作っても、「繊細で濃い」スピーカーにしてしまう
この人のスピーカーはいつも高域の繊細さと低音のソリッドさにこだわりがあって
「濃い中低域」になる。
太く、黒く、しかも繊細
彼独特の低音です。
そのくせなぜか高音もしなやか、相反するこの2つが高水準でバランスします。彼のキャリアをみると納得ですが、ファンにとっては典型的なフィル・ジョーンズの音。
この数十年間、メーカーが違おうとも手がけたモデル全てに通じるタッチであります。
A80は濃いなーと思っていますが、A100そしてA300 Proは更に濃厚。
こういう設計者がアクティブスピーカーを作ると制約が逆にメリットになってしまう。
アンプのチューニングも含めて音を自在に操れるためです。
後述の「Phile Jones Bass(PJB)」ブランドでの経験からアンプその他のスキルを高めたようです。
DAC・アンプまでもが同じ設計者・フィル・ジョーンズ節全開
今回フィルはアンプとDACもセットで手がけた。
これがAirpulseが他社と根本的に違う優位点です。
DAC・アンプそしてスピーカーを全て同じ設計者がデザインしていること。
アクティブスピーカーの制約を逆手にとって、なんと「フィル・ジョーンズ節」をより濃くしてしまっている。
例えばこの音を、単品のオーディオコンポーネントで出そうとしたらどうなるか。
A80・A100・A300 Proの予算で同等音質のコンポーネント組み合わせは難しい
ほぼ間違いなく、かなりの高額になります。
A300 Pro、実勢価格で25万円ぐらいですが
トータル25万円の予算で他社のスピーカー・アンプ・プレーヤーを個別に買った場合、この音を出せる組み合わせはちょっと思い付かない。
A100、いわんやA80の価格で購入できるシステムではまず出せない音です。
予算に制約がありすぎて比較が成立する単品コンポがない。
AIRPULSEのおかげで「中古のフィル・ジョーンズ」を探す必要がなくなった
なおデスクトップに置くとむしろもったいなく感じるようになる。
反響するしグラグラするから、座りのいい安定したスピーカースタンドに載せてやりたい気持ちにさせます。
つまり使っているとどうしても「もう少し真剣に聴いてみるか」と思わせるのです。
フィル・ジョーンズのスピーカーについては今もメーカーを問わず中古の人気が高く、アタシも見るたびに欲しいなーと思っておりました。
AE-1、Platinum、Lynnfieldと名品ぞろいです。ただいかんせん時間が経ちすぎてコンディションが怪しいものがほとんど。
しかしもう新品で買える、A300 Proならベスト。
中古の状態に怯えながらわざわざ中古を買う必要はない。
(自信をもって)繰り返しますがA300 Proはまぎれもないハイフィデリティ、「フィル・ジョーンズ節」であります。
メーカー、製品が違っても同じ・黒い低音と繊細な高音
このフィル・ジョーンズ(Phil Jones・ロンドン生まれ)について、「ただの一度も失望させたことがない」と申し上げました。
フリーランスのオーディオエンジニアにして常に話題作
ほうぼうのメーカーを渡り歩いているのですが、行く先々で必ず話題作を作るからです。
- アコースティックエナジー(AE)
- ボストンアコースティックス(Lynnfield)
- Platinum Audio(Solo・Duo、そして巨大ホーン型のAir Pulse 3.1)
- AAD
アタクシはLynnfield 500Lであまりにもレスポンスの速い「黒い低音」にたまげて以来、機会を見てはほぼ全てを聴きました。
みんな独特の繊細な高域とソリッドでしかも太い低音
アコースティックエナジー AE-1なんて小さいくせにもう図太いレベルでありますから。
大型スピーカーでいいのか、初めて自問自答したモデルであります。
Platinum Air Pulse 3.1も聴いた(インターナショナルオーディオショーとショップで)。
あれだけ例外で、あまりに巨大で動かす空気量が大きすぎて小さい部屋だとモワモワしちゃいます。
実は販売価格が2千万円もしたため日本でも2−3セットぐらいしか売れなかったそうで、アクシス(輸入商社)でも今となっては組み立て方がよくわからないとか。
多分全世界でも販売された台数は少ないでしょう。
部屋の大きさは東京国際フォーラムのホールぐらいでないとダメという理由です。
ただ、普通小型スピーカーしか手掛けていないエンジニアが作れるものではありません。
故 菅野沖彦氏と浅沼予史宏氏絶賛でありました(浅沼予史宏氏がほめたものは間違いが少ない)。
AADはよかったのですが、会社自体があまり保たず何年もしないで消えてしまった。
この人らしい、経営はあまり得意ではない。組織で動くのも下手。
実はこの点が才能と引き換えの欠点であります。
まあこれで経営の腕もサエていたらもう可愛げがありませんが。
そもそもAIREPULSEをあんな安く売らないでしょう。
「PJB」ベースアンプも同じ評価・小型、多機能、パワーと繊細さ
AAD社の後、一度ハイエンドオーディオから離れて『Phil Jones Bass(PJB)』ブランドでベースアンプをリリースしています。今はこちらのほうが有名です。
『Phil Jones Bass』ベースアンプはコンパクトながら上品さとパワフルさ
特にベース系のミュージシャンの方で知らない人はいません。
これまた小口径ユニットですから小型なのですが、評価は「芯がある」「透明感」
見事なまでにオーディオスピーカーのレビューと共通です。
ピュアオーディオの彼を知っている人ならばこのレビューにピンと来る。
カテゴリー違いでもピンとくる個性の強さ・独特の繊細感
メーカーどころかカテゴリーが違うにもかかわらず
ソリッドで反応がいいけれど豊か、そして独特の繊細感。
これが常に同じ。
この人が設計したとすぐわかる、かなり珍しい個性です。
音楽の大事な部分を知っていて
狙ってそこをブーストできるスキルとセンスを持った人です。
PJBではポータブルアンプなどもリリースしております。楽器カテゴリながら、同じく彼らしい音しかしません。
アコースティックエナジーAE-1で小型スピーカーの低音を変えた
特にAE-1がリリースされたときは小型スピーカーの音作りが変わったと言われたほど。
フォロワーが続出しました。
個人的にもブックシェルフスピーカーの低音表現はこのあたりからはっきり変わったと思います。
「ブックシェルフスピーカーの低音は鈍い」という概念をくつがえした
実はフィル・ジョーンズの代表作以前、いわゆるブックシェルフなどの小型スピーカーは低音が弱点でした。
一言でいえば、より低い音を豊富に再生するほど反応が悪い、鈍い音になってしまう。
理論的な話ははしょって簡単にいえば、小さな箱で低音の特性を伸ばすと明らかにレスポンスが悪く、鈍い音になる。
反応が速い低音は大型スピーカーの特権でありこれは仕方がないものと思われていた。
この原理を打ち破ろうとさまざまな挑戦が行われてきましたが、フィル・ジョーンズはAE-1でその制約を軽々と超えてしまった。
大型に迫るどころか反応の速さは掛け値なく一級で、大型スピーカーでも比べて鈍重なものがあったほどです。
以来小型だから低音が鈍いという言い訳が通用しなくなった、彼は完全に世の中の流れを変えました。
BBCモニター「LS3/5a」以来の英国調を変えた
しかも保守的と思われていた英国発のムーブメントです。
大きくはタンノイ、同クラスならLS3/5aに代表される「英国調は暖かく豊かな響きで聴かせる」なんて文法からドーンと外れてしまった。
それまでは小さいのだから低音は測定値だけで我慢するか、最初から出さない、というのがお決まりでした。そこにいきなり反応の速い、しかも更に低い音を出したので皆驚いたのです。
AE-1の低音が世界的な流行に・現在の小型スピーカーの基本に
90年代前半のBowers and wilkinsブックシェルフもアコースティックエナジーほどの反応の鋭さはなかった、今では考えられないほど「英国」しておりました。
「大型スピーカーでなくても聴ける」といわれるようになった。
最大要因のひとつであるフィル・ジョーンズその人です。
より低く、たっぷりと厚みがあって、しかも反応が早い低音を小型で出せたらそりゃいうことがないのですから。
AE-1以来、イギリスだけでなく世界中の小型スピーカーメーカー各社がこういう低音を真似たモデルをこぞって出した。
Bowers and Wilkins(B&W)は上記のとおり。
KEFは80年代のモデルとは明らかに変わったし、DYNAUDIO、DALIと注目しなかったメーカーはありません。Monitor audioの先祖のようなものです。
フリーランスでありながら転職先の伝統を変えてしまう才能
これほどの才能がなければフリーのスピーカーエンジニアで食べていくなんて無理でしょう。
実際転職した先々でメインの設計者におさまっています。
なお彼が辞めた後も、あまりに洗練されたトーンに、居た会社の音はあまねく変わってしまいます。
ボストンアコースティックスはLynnfieldのあとカーオーディオ向けスピーカーの音まで変わってしまった。
あの濃さが好評だったのでしょう。
アコースティックエナジー社にいたっては事実上AE-1のモデファイモデルで存続したようなものでした。
才能の代償は世渡り下手・契約がらみで訴訟沙汰も
ただ渡り歩くと表現したぐらい一箇所に落ちつけない人。
才能の代償とでもいうのでしょうか。勤め人的な処世の才能はあまりないらしい。
まずかったのは「契約」とかそういった方面は(どうやら)疎いということ。
キャリアスタートは英国の老舗VITAVOX(ヴァイタヴォックス)・以来腕一本で稼ぐ
そのキャリアは1980年に「VITAVOX(ヴァイタヴォックス)」からスタートです。
ここでスピーカーの基本を学んだとのこと。昨今まず聞かれたことのないメーカー名と思います。
大変に「英国的」なメーカーです。
彼のようなユニークな才能が極めて保守的な環境からスタートしていることは大変面白い。
単なる一発屋で終わらなかった理由だと思います。
VITAVOX(ヴァイタヴォックス)は革新・斬新で知られたフィル・ジョーンズの世間的なイメージとは対極にある、いわゆる「老舗(しにせ)」であります。
現在は民生分野からは離れ、英国軍向けの音響装備を中心に活動しております。
いっぽうで以下のCN191もレプリカが作り続けられております(冗談みたいな高値です)
以下は公式ウェブサイト、あまりの違いが面白い。
- 現在のVITAVOX(軍用通信部門)
- 民生用VITAVOX(CN191の販売窓口)
※なお民生用のヴァイタヴォックスは本家とは資本が違うようで、あくまでレプリカ製造専門のようです。
保守的なブランドで独創性を磨いた異例のキャリア
なおその彼がVITAVOX(ヴァイタヴォックス) でキャリアスタートしたことはとても重要です。
1931年(昭和6年)、第二次世界大戦の8年前に創業された世界で最も古いスピーカーブランドのひとつ。
劇場や放送用から家庭用まで幅広く手がけた名門です。
確かCN191ホーンスピーカーのエピソードですが、メジャーだった頃に自社のスピーカーを評して
「女王の声は格調を保って再現されねばならない」
とかうそぶいたメーカーです。
英国人てな、クールに見せて大時代なことを平気で言うもんです。
最初はセミプロのベーシストをしながら働きはじめたそうですが、才能を認められて設計に携わった。
80年台はVITAVOXが民生と軍需の両方を手がけていた時代です、新旧さまざまな技術を学んだでしょう。
その後独り立ちして、文字通り「腕一本で稼ぐ」スタイル。
名設計者として世に認められ今に至っています。
伝統から革新へのきっかけをつかんだ・現在のAIRPULSEに続く独創性
FyneAudioが旧Tannoyの伝統技術を色濃く受け継いでいるように、フィルも名門特有の音作りから何かをつかんだようです。
彼の音がただ迫力や解像度だけではない理由のひとつであります。
特にホーンスピーカー独特の反応の良さや音の品位に関する知見は経験とセンスがものをいう。
ヴァイタヴォックスしかわからない工夫も多々あると思われます。この会社は低音もホーンでしたから。
現在のAIRPULSEの音が、生意気なほど本格的な理由です。
なお余談ながらJBLはハイエンドスピーカーから若干距離があります。
しかしホーン搭載のホームシアターモデルが好評であることは、音楽にはそういった良さが必要かもと思わせる話です。
腕はいいのに処世術、経営の才がない・AEでは訴訟沙汰に
これほどのセンスと、これほどの設計スキルがありながら一ヶ所に落ち着くことができない。
せっかくの大成功も彼にはトラブルの種になることさえ。
アコースティックエナジー(AE)社では訴訟沙汰にまでなったほど。
設計仕様をAE社が勝手に変えたとか変えないとかいう話で、AE社の言い分はフィルの設計仕様だと公差(精度)の指定が厳密すぎて量産コストが非現実的に高くなるからとか。
なお20年ほどしてAE社はAE-1を再生産していますが音がちょっと違った。このあたりが理由かもしれないと思っております。
ともあれこの件は本人激怒しており、後々も「あれは間違っている」と。でもこういう「前」は業界ではもちろん歓迎されません。
無論フィル本人は正しいと思っているので全然気にしない。
そのせいかあらずか、その後もほうぼうをわたり歩き行く先々で大きな影響を与えるのですが長続きしない。
円満退社もなかったようです、よほど処世術が苦手なんでしょう。
自分の会社を興すもやはり続かない。
こういうところも逆にファンがつく理由であったりします。
「気配り」「忖度」「おもてなし」とは無縁・銭勘定や勤め人が壊滅的に合わない
基本単独犯の人、群れません。
彼からすればアコースティックエナジーの評価は自分が確立したぐらいにしか思ってないはず。
でも現実にはフリーランスなわけです。
しかし他人の評価なんて気にしません、気配りも忖度も、いわんやおもてなしなんてしないでしょう。
こんな人物が銭勘定や勤め人をやるなんて無理です。
なんだか60年代ぐらいの英国人の話を聞くようです、この個性と最先端の才能が同居している人物。
変わり者が多いオーディオ設計の世界でも際立った「オレ流」です。
しかし周りが認めるしかないものがある。
- ベーシストでありながらあえて小口径ウーファーにこだわる
- 精度を妥協しない(裁判も辞さない)
本物の個性というやつです。
クラシックは絶品・音については他人事のように客観的
なお付け加えますと、キャリアスタートの当初はパルシブな低音が売り物でした。
しかしベーシストといいながらフィル・ジョーンズの作るスピーカーはどれもクラシックが大得意であります、ほとんど絶品です。
好きな音が出ればそれでいい、ということだけは一回もやったことのない男でもあります。
自分の音がどういうものか、突き放して聴くだけの客観性がある。
こんにちAIRPULSEが極めて精緻な音を出す理由です。
アウトローを気取る手合いにありがちな独りよがりとは無縁。
メーカーも造りも全く違うのに、数十年間常に同じ音楽を作り上げてくるのですから。
AIRPULSE A80の濃さは絶品・あの値段であの音は出ない
個人的にはともあれA80です、良いの上を行っております。
あれはわかりやすく、よろしい。
同じ値段、あるいはもっと安い代わりがあるかも、とか考える気がなくなる音です。
趣味ですからあんまり値段のことは言いたくありませんが、同じ予算でコンポーネントを個別に買ってこの上を行くことはおそらく無理です。
コンパクトだからとばかりにうっかり買ったら
- 結果として10年ぐらい使ってしまった。
- サブシステムのつもりが居座ってしまい、メインシステムが入れ替わる間も動かせず結局最後まで残っていた。
ということは充分ありえる。そもそも英国のスピーカーはスルメみたいな味がありますから。
総計8万円のアクティブスピーカー・単品コンポで実現不可能な高音質
なにせ8万円、A80はアンプとDACが一緒のスピーカーです。
あまりに安すぎる。
A80の音質レベルを目指したら、どんなに単品コンポの価格情報をかき集めても簡単に予算オーバーするとわかります。
- スピーカー
- アンプ
- 何らかのプレーヤー、またはDAC
- 各種ケーブル
- スピーカースタンド(高音質で安くあげる方法はこれです)
普通はこれだけそろえないと(ラックはハナから無理なのでもう外した)。
予算8万円でA80クラスは中古ですら無理です。
A80はUSBケーブルとスピーカースタンドさえ追加すればいいのです。
あとはスマートフォンさえあればハイレゾの、それもかなりハイサンプリングな音源が聴ける。
構えずにBluetoothでいこうともなればケーブルもスタンドさえも不要です。
なおアクティブスピーカーはピュアオーディオでは軽く見られる傾向がある。
正直申し上げますとアタクシもそうであります。Bluetoothに至っては明らかにCDより限界は低い。
ただこのA80は、なんともはやです。
アクティブスピーカーは上限が決まっていると思っていただけに異質すぎて言葉がない。
ハイレゾロスレスを完全再現するXMOS/バランスアンプ・部材も厳選
AIRPULSEのサウンドはフィルジョーンズのキャリアでご説明したほうが早いのでここまで触れませんでしたが、AIRPULSEは作りも本質を押さえています。
- 入力は192KHz(PCM)対応
- XMOSプロセサからアンプ部(TI製TAS5754)まで最短で直結しダウンコンバートせずDクラス増幅
- ウーファー・ツィーター共に最短接続のバランスアンプ仕様(アクティブの良さです)
- トランスペアレント製ケーブルによる内部配線
マグネシウム合金フレームと強力なマグネットで固めたスピーカーユニットとともに、こういう「おいしい材料」を与えられたときフィルはいい仕事をします。
なおAIRPULSEはピュアオーディオ系雑誌メディアでの露出がほとんどありません。
100万円のスピーカーあるいは10万円のプリメインアンプのベストバイを特集しているんですから、今更パソコン向けのアクティブスピーカーをホメないでしょう。
しかしA80はまさしく8万円もしないで
ファーストモデルでありながら
軽々と『一線』を超えてきました。
A80でこれだからA100やA300は更に無視できなくなるのです。
予算にゆとりがあるなら、あるいは無金利の長期ローンが組めるなら上位をお買いになるべきと思います。数年で飽きるようなものではないからです。
スピーカースタンドはIKEAの椅子・スツールで充分(というか高音質)
実は本気で考えたことがございます。
とりあえず持っておいて音で悩んだらこいつを鳴らして正気に戻ろうかと。
IKEAのスツールをスタンドにしてあとスマホがあればもう文句なしです。
ワイヤレスで「濃く聴ける」のが嬉しい
こいつが凄いのは光やUSBが面倒なとき、とりあえずBluetoothで聴いても濃いめの音であること。
ハイレゾの音質ではないのに、フィル・ジョーンズのタッチはそれを十二分に補います。
最安グレードながら絶妙なセンスでまとめ上げています。
なおA100は一段と音のスケールが大きくてカラーバリエーションが豊富というのは素敵です、予算があればこちらですが。
今回現品の展示がございましたが、買うなら赤がほしい。
ソリッドな発色のよろしい真紅でした。
Lumia1 (Sonus Faber)やF500(Fyne Audio)はスピーカー以外のシステムで大予算
前に述べているようにアタクシはSonus FaberのLumia1推しであります。
しかしAIRPULSEと比べあれはシステムにお金が掛かる、実にかかる。
10万円クラスのブックシェルフスピーカーはハイエンドアンプが欲しくなる
単純な比較は乱暴ですが、Limina1で「我慢しない音」ともなれば、スピーカーを含めたシステムトータルの予算が30万ではちょっと苦しいでしょう。
Fyne AudioのF500はある意味もっとクリティカルです。
Lumina1よりもシリアスな音が出せる分、システム全体に高解像度系を求めてくる可能性があります。
Lumina1やF500はそれほどのパフォーマンスがあるという証左ともいえます。300万円のアンプを繋いだら応じた音を出しますから。
ただそれは組み合わせや使いこなしで、A100レベルはおろかA80同等さえ難しい結果もありえるということでもある。
AIRPULSEは「スピーカーのおすすめ」「人気ランキング」とは無縁の存在
これについては「なにをいい加減なことを」と思われても仕方がありません。
ローエンドがハイエンドに勝つ話って常に怪しいですから。
いっておいてなんですがアタシもそういう話は好きじゃない。
そもそもオーディオは、最高速度を競うような単純さとは違う奥行きがあるわけです。
ただこのA80をはじめとするAIRPULSEシリーズについては、いわゆる「スピーカーのおすすめ」「人気ランキング」からちょっと離れているということをお伝えしたかった。
フィル・ジョーンズの作品はそういうもの、実績がすべてです。
彼ならではの世界があり「ヤツのつくるものなら聴く」というファンのついている男であります。
なおAIRPULSE自体は新興ブランドでも、フィル・ジョーンズにとっては慣れた仕事です。
アンプやDACまで好きに音を創ってよいとなって、本人さぞかしはりきったでしょう。
AIRPULSEで落ち着いて欲しい・放浪癖があるので
AIRPULSEシリーズに不安があるとすればそれは音質ではありません。
フィル・ジョーンズ本人がまたフラフラっとどっかに行ってしまうことです。
冗談でなく彼のファンになると割とまじめに考えることです。
いきなり行方不明になって、ある日突然あたらしいブランドと共に現れる。
それを何度も繰り返せるのはまさしく才能ではありますが、このあたりで腰を落ち着けてせめて10年ぐらい作り続けてくれないかな、とA80を見るたびに思います。