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ST-90-05は「濃いボーカル」そのままにワイドレンジ化

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ヘッドホン・イヤホンは「新素材」大流行、しかしアシダヴォックスは我関せずとばかりです。

これがいい。

カタログアピールだけではロングセラーになれない、トータルバランスこそ長く定番の理由です。

それにはいろいろなアプローチがあるわけですが、アシダボックスは「中域」。
つまりヴォーカルを磨いてワイドレンジにしたという昨今珍しいもの。

何十年もボーカルのみ磨き続けた末のワイドレンジ

そもそもST-90-05を買った目的はB&W P3 series2の代わり探し。

しかし代わり探しではすまなくなった。
いささか大人げないのですが、P9 signatureとも比べてみたい気にさせた。

Bowers & Wilkins P3 Series 2 review - Soundphile Review
The new Bowers & Wilkins P3 Series 2 were launched a few months ago as heirs to the lucky first … More

値段が違い過ぎるのでお試しでありました。しかし実物はあまりに面白すぎた、世上似たものは皆無です

いまどき中域を磨いてワイドレンジ化なんて手法はまずお目にかかりません、いかにも老舗です。

古典的「ボイスモニター」が出発点のアシダヴォックス

スペックに見える音質設計から改めてB&Wと比較してみると、「古典」と「現代」の手法の違いをまざまざと感じます。

設計アプローチの時点からまったく違う

  • 中域を上下に拡げたワイドレンジ(アシダヴォックス)
  • 最初から広大なワイドレンジ設計(B&W)

こういう違いは簡単に優劣を決められない。だから聴き比べは実に楽しい。
同じ録音でも音は全く違うから。

最初からワイドレンジありきのB&Wと「中域勝負」のST-90-05

素人に見せてB&Wのワイドレンジ&フラットは「テク」が満載。
最新のワイドレンジはナチュラルメイクです。

いっぽうのST-90-05にその手のプロっぽさはない。
素人メイクです、なぜならあくまでカタギの道具として鍛えられ続けたから。

原型のST-90はプロ用の、しかも「ヴォイスモニター」特化であります。

  • 人の声を中心とした帯域を忠実に再現
  • マイクが拾う音を正確に再生
  • 頑丈

演出が許されない・ハイクオリティの中域から高音と低音を伸ばした

モニターするヘッドフォンで音を作ったら、放送音はむちゃくちゃになります。
だから「演出」はしません。

許されるのは中域のクオリティをあげることだけ、当然ながらここが濃くなる

この中域のまま高音と低音を伸ばしたらどうなるか。
その結果がST-90-05です。

「優れたボーカル」すべてのヴィンテージ名機に共通

偶然ながらB&Wと比べたのでわかりやすかった。

開発思想からして全く違うからです。
ある意味ST-90-05のほうが普通じゃないこともわかった。ヴィンテージの手法にこだわるからです。

最初からワイドレンジありきのB&W・ハイレゾ時代ゆえ

B&Wを含めて現在は最初からワイドレンジで設計を始める。
当然です、ハイレゾ時代です。

そもそもリファレンスがスピーカー、800系。
特定の音楽がきれいに聴こえる程度では許されません。

老舗は設計手法も違う・中域を磨き続けたST-90-05

アシダ音響は全く、完全に、アプローチが違う。
時代離れしております、簡単にいえば進化の流れはこうです。

  1. 「ボイスレンジ」つまり中域のクオリティを徹底的に上げる
  2. 何十年もプロユースのリクエストに応え品質を上げる。
  3. 音楽ソースの変化に伴い、高音と低音を加える

その結果が今のところST-90-05となります。

スピーカーでいうところのヴィンテージ名機と同じアプローチ。
実際そういう時代に生み出された。

ALTEC(JBLの親みたいな会社)のA7(1965年)なんて”Voice of Theater(ヴォイス オブ シアター)”と呼ばれています。

「濃いボーカル」はALTEC、JBL、Tannoy、そして現代ハイエンドの目標

トーキーと呼ばれた頃の映画用に、俳優のセリフを明瞭に再生する目的で開発された名機です。
数十年前のユーズドが、今現在も数百万円で取引される。

このALTEC・A7は今(2021年)から56年前のスピーカーですが、ハイレゾ対応についてオーナーはほぼ会話しません。

基本性能が高いので心配がないのです。

海外の著名なオーディオエンジニア(例えばネルソン・パス)でも使っているほど。音楽も映画も現代のハイエンドも、まず大事なのは中域。難易度が高いのです。

現代のハイエンドスピーカーも高評価はここをアピールしてきます。
Sonusfaberがいい例です。

ハイコンプライアンスはライトウェイトスポーツの発想

いっぽうで現在のイヤホン・ヘッドホンは「新素材振動板ブーム」です。
ST-90-05にそういう派手さはありません。

以下はこのヘッドホンに関する限り、それは全く関係がないというお話です。

新素材によるハイレゾ対応・アシダボックスは普通の樹脂振動板

宣伝としてみれば明らかに分が悪い。

何せあのナノテクとかボロンなんて名前もすごい、「ハイレゾならこれでないとダメ」ぐらいな迫りかたです。

対するアシダヴォックスはエンジニアリングプラスチック、つまり普通の樹脂(PET)であります。

「軽量振動板」+「強力マグネット」の合理的設計

これははっきり申し上げられますが、

振動板の素材や口径

見るべきはここじゃございません、イヤホンやヘッドホンでは特にです。

クルマを買うときに、ハイオクかレギュラーかだけで決めるようなものです。

ハイコンプライアンス設計、つまりうんと軽い振動板を強力に駆動すること。

  • 1テスラの強力マグネット
  • 樹脂製の「軽量」振動板

この組み合わせです。
合理的、ただしセンスが問われます。

新素材は例外なく「重い」振動板をどう速く動かすかに苦労しています。

新素材はあくまで要素にすぎない・ファインチューニングが決める

振動板の素材は、音を決める要素のひとつにすぎません。

実はピュアオーディオも定期的に新素材ブームがきて、そのあと必ずパルプコーン、つまり紙に戻ります。

素材を生かしきるテクニック、つまり本当のファインチューニングが必要です。
新素材はこなれていないというか。ある部分の音はとてつもなくいいんですが。

なお念の為。

特別な新素材を宣伝したもの以外

現在あるイヤホン・ヘッドホンの振動板はほとんどが樹脂製です。

アシダ音響が特別古いわけではありません。

ただ「軽い振動板」を設計の大目的としている、ここが古くて新しい。
つまり微小信号にとても敏感です。

「ハイコンプライアンス」つまりフラフラの振動板を強力にドライブ

そのハイコンプライアンス設計。これは振動板が、感覚的にいえばフラフラしている。

ST-90-05の美点は「反応の良さ」・ロータスやケイターハムのような

だから反応が速い。

ただし良いことばかりではありません。
フラフラしているため振動板をガッチリ押さえていないとブレる。
強力に駆動してやらないとすぐ動いてしまうし、反対に振動が止まらないことになる。

ここで「1テスラの強力マグネット」です、がっちり抑え込んでおります。

演奏だけでなくレコーディングエンジニアの思い入れ、再生機器の設計者が求めるニュアンス。
ST-90-05の振動系はこれらに鋭く反応します。

B&Wを現代のアストンマーティンやベントレーに例えるなら

アシダボックスは軽いボディに強力なエンジンを載せたライトウェイトスポーツカーと同じ。

それもロードスターではなく、ケイターハムやロータスに近い、もっと古典的です。
パワーでなくシャープなハンドリングと鋭い加速で勝負であります。

これがモニター用途に効く。
レコーディングの状態を忠実に伝えるには、微小信号に対して高精度に反応しなければ。
単に超高域を再生だけではダメです。

バランスと練り上げ・新素材のデメリットは歴史の浅さ

じゃあ現代の新素材はどうなんだ、意味が無いとでもいうのか。
こういうご批判を受けそうです。

新素材は「データがすごい」・なぜかいつの間にか消える

  • ものすごく硬い
  • 内部損失が大きい

相反する性質ですが実現しようとした。新素材のチャレンジあればこそデジタルもハイレゾまで行けたわけです。

ただ伝統的なテクノロジーって本気で練り上げるとアシダ音響のように相当に強いんですよ。

なにせ数十年の蓄積、一方の新素材振動板はどうしても歴史が短い。

音も一点豪華主義になりがち。ある部分は優れているのですが「代わりにここが・・・」
という部分はどうしてもある。

一言でいえば「測定データは良いが実際に聴くとバランスが良くない」ということらしい。

そのせいでしょうか、いつの間にか消えるのもオーディオ新素材の常なのです。

全方位で古典的な材料を超えた新素材というものがなかなか出てきません。

ボロン、チタン、カーボンはピュアオーディオで大ブーム(80年代)

ピュアオーディオでは80年代すでに新素材ブームがありました。

ダイヤモンド・ボロン・チタン・アラミド・マグネシウム・カーボン・ベリリウム・マグネシウム
ナノテク以外はほぼ全部あったといっていい。

なお製造する設備は現在とほぼ同じです。

思いつく限り並べてみましたが今イヤホンやヘッドホンにもおなじみです。
そして今もハイエンド分野で使われてはいますが、80年代オーディオでは今では想像もできないぐらい大量に売られておりました。

自社製品のためだけに製造設備を投資できた時代です。ボロンなんて実験用の焼成炉だけで当時1億近くした。

NASAからバイオテクノロジーまで、文字通りなんでもあり

スペースシャトルが飛んでいた時代です、NASAの技術なんてのは序の口。見ているだけで面白かった。

NASAの代表「ONKYO GS-1」、はっきりいって感心しない音でした

キチン質(カニの甲羅からとった)とか海藻の成分なんてものさえ大真面目に使われた。
振動板に塗りたくった。

バイオテクノロジーが流行ったころです。

バイオリンの名器ストラディバリを科学的に分析した結果という触れ込みでした。カニの甲羅(実際にはセミだとか)があの音の秘密だという研究結果でした。
なお現在では全く関係がないことが明らかになっています。

「テクニクス」つまり最強だった頃の松下電器が大金を投じて研究した結果です。
新聞など一般メディアでも取り上げられました。

猛烈にカネがかかっていましたが、今はありません。ヘッドホン/イヤホンで振動板素材にあんまり興味がわかない理由です。

現在ストラディバリと並べて展示は「Sonusfaber」

なおストラディバリ中最高の名器「イル・クレモネーゼ」とともに1台だけ展示されているスピーカーがあります。
Sonusfaber時代のフランコセルブリン作「ガルネリ・オマージュ」であります。

カニやセミの甲羅からとったものを塗ったスピーカーではない、バイオリン職人が作ったしごく古典的な製造です。

90年代にはなぜか『紙』が高級、いい音に

上記のブームはなぜか90年代に終息します、「紙」に戻っていった。
高級品ほど紙のよさをアピールするようになりました。

クルトミューラーコーンなどレトロな素材が完全復活

理由は分かりません。

個人的には新素材を採用したスピーカーはいわれるほど音は悪くなかったと思っております。
ただ現実として「クルトミューラーコーン」などが大々的に復活したわけです。というよりほとんどの新素材が消えてしまった。

バツが悪かったのか紙・ペーパーと言わずに「バイオセルロース」と書いたメーカーもありました。
今でもある表示でちょっと笑えますけど。

一番メジャーだったDIATONEが事業部を廃止したのですから、当時の新素材チャレンジは少なくとも商売として成功はしなかったといっていいでしょう。

英国はなぜかプラスチックとペーパーコーンだけ・そして名機続出

面白いのは英国スピーカーであります。
連中らしく当時の新しいものに全く興味を示さない、しれっとしてた。

新素材に見向きもしない英国の名機・Rogers、HARBETH、Spendor

  • ポリプロピレン(PP)コーン
  • ベクトレンコーン(ご大層な名前ですが要するにプラスチック)

ペットボトルの素材みたいなものか、ペーパーコーンばかり。

そしてなぜか名機続出です。

  • HARBETH HL Compact
  • Spendor SP100(日独の放送局でも使用)
  • そして大名作のRogers LS3/5a(BBCモニター)

中古の値段をみればわかります。なおBBCに採用されるとき、メーカーに提示される技術仕様はきわめてありきたりだったそうです。

しかしプロトタイプが出来たのちのヒアリングが開発工数の大部分を占めたそうです。いかにも連中らしい。

英国スピーカー使いは「アナログレコードを捨てなかった」人

なおこれら英国スピーカーを聴き込んでおられた方と新素材の話は当然ながらしづらかった。
アタシが若造ってこともありましたが、DS-5000とか使っているとTannoyやHARBETHとかの方の前ではなんとなく小さくなる。まだJBLの方々のほうが気楽でした。

なんと申しますか、皆さんとても大人。

真っ向からの否定もされず「なかなか面白いじゃないか」といったゆとりがありました。
それでいて音のセンスは申し分なかった。オーディオと音楽、両方に詳しかった。

ついでに申しますと、これあくまで個人的な見聞ではありますが、

CDが出たとき「デジタルサウンド時代」と大絶賛され、多くの方々がアナログレコードを処分しました。
後になって大後悔をされています、しかし

「アナログレコードを売り飛ばさなかった人たち」の多くは英国スピーカーをつかっていたのであります。

レトロというより「クラシックスタイル」・アシダ音響のイヤホン・ヘッドホン

繰り返しますが新素材もいいものがある、Bowers and wilkinsがいい例です。ただ以前申し上げましたとおりオーディオはチューニングが必須です。

ST-90-05は50年近くかけている、アシダ音響だけでなく取引先の協力会社もそのつもりで作る。
1〜2年で作った製品には真似ができません。

レトロというよりクラシックスタイルと申し上げていい。

チューニングに50年近くを掛ける・世上似たもの無し

BBCモニターの採用でわかるとおり、評価の高いオーディオに必要なものは長期間のチューニングです。家電の常識をはるかに超える長さであります。

  • ハイコンプライアンス設計
  • 軽量振動板
  • 強力マグネット

ST-90-05に目新しいものは何ひとつありません。

しかし原型モデルのST-90が出た1970年代から50年近く、基本そのまま細かくこまかくリファインを重ね続けてきた。

どういう意図でこれを続けたのかまったくわかりませんが、とにかく似たものはもうありません。

コピー不可能な音質、耐久性、装着感・知るほどに不思議なアシダ音響

以前申し上げましたが、フォロワーはST-90-05の一見コピーは作れるでしょう、しかもかなり簡単です。
しかし音は絶対に真似できない。

造りからしてご紹介したとおりです。耐久性とあの装着感、7千円を切るヘッドホンのもじゃない。

厳選された部材と丁寧な組み立て。
そして長期にわたって同じものを作り続け、レベルアップし続けようとした途端に得体の知れないコストになってしまう。

同じメーカー人間として、何十年も、しかもこの販売価格で続けた意図が全くわからない理由です。

イヤホン・ヘッドホンもいろいろあって、上位機種から下に行くほど悲しくなるようなものもまあ正直あります(たまに上に行くほど悲しいものもある)。
それが商売というもの、アタシだって食べるためにはそういう製品向けの部品はたくさん作ってきた。

しかしST-90-05はその流れと全く違う、そして変える気もないらしい。
知るほどに不思議な製品、まさしく老舗と呼んでいいアシダ音響であります。

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