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アシダヴォックスST-90-05の耐久性は「ユーザーの3年目」を考えた頑丈さ

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先入観なく比較する為、あえてスペックを見ず音質だけで比較したST-90-05ですが、その造りもユニークそのもの。

「丈夫で長持ち」

見た目どおりのいまどき珍しい設計と造りでありました。
音と同じく今回もB&WのP9sig以下と比較。

設計、そして実際の製作水準が高い。
よくある「プロっぽい」仕様とは一線を画するものです。

面白いのはこの会社、「ユーザーの3年目」を想定したかのような造りをしていることであります。

高度の製造品質・耐久性は比較できるヘッドホンが思いつかない

この耐久性、つまり頑丈さですが現在市場にあるヘッドフォンの中では

比類がない頑丈さ

と言って差し支えないと思います。

つまり製造業の視点で見たとき、使われている材料と設計、そして組立精度の点でエクセレントです。
比べられるものはあってもごく少数と申し上げてよいかと。

断線対策は医療・産業用メーカー製ケーブルを採用

まずケーブル、太さも仕様もオーディオ分野ではあまり見かけないものです。
取り回しのし易いしなやかなものですが太い(表面にラインが入っていてからみづらい)。

これは医療・産業用ケーブルの製造メーカーよりST-90-05向けとして調達しているものとのこと。

ヘッドホンで一番多い故障は断線・ケーブルそのものを上質にして対策

ヘッドホン・イヤホンの故障で一番多いのが「断線」です。

アシダ音響ではケーブルの屈伸テストなどの内容は社内のデザインルールのため公表していませんが、断線する条件について豊富な知見を持っていることはわかります。

結論がこのケーブルであります。

B&W P9 signatureの標準ケーブルとの外観比較がこれ。

リケーブル大流行のいまケーブルの音質は一家言ある方がたくさんおられます、アタシなんぞの出る幕はない。

特殊ケーブルは高耐久、しかし確実にコストアップ(アシダ音響が負担)

ただ産業用途としてみれば、ケーブルの耐久性については用途によりきっちり規格化されております。

コストも明確に違う、アシダ音響は一番お金のかかる選択をしたのです。

いっぽうで中国のOEM/ODMメーカーがセット込みで提案するものは、モノや要望内容にもよりますが、アシダボックスの原価と比べて最大で8割ぐらい安いものもあるでしょう。

中国のODM業者に「とにかく安く上げろ」といえば、本当に腰を抜かすほど安い見積もりが出てくる。

もちろんそんな依頼は怖くてできませんが。

ここ1年ぐらいは素材高と部材の調達難でリード線などもかなり高くなっています。
それでも見つけてくるのがあちら流、そこが怖いのです。

ダイソーのヘッドホンについているケーブルと数万円のイヤホン・ヘッドホンのケーブルが同じでおかしくない世界です。

オーディオケーブルは、音質については細かく造り込んでおり説明も詳細ですが、耐久性とか耐圧のように規格化された仕様については公表されないため、メーカーの目で見てもわからないものがときどきある。

アシダ音響が調達する特殊ケーブル系はすべてが安定しているところが安心です。

「国産」ヘッドホン・分解が難しいほどタイトな組み立て

ケーブルひとつとってもアシダ音響はかなりの例外です、こういうものはない。
加えて製造も国内(宮城県)とこれまた際立っている。
(これ本当に驚いてます、価格的には完全なエントリーモデルですから)

なるほど組み立てだけではなく、純「国産ヘッドホン」をうたうだけのことはある。パーツも選ばれるはずです。

通常ヘッドホン・イヤホンは製造から設計までほとんど外注

実際ヘッドフォン・イヤホン分野では

  • 自社は企画のみ
  • 詳細な設計と部品選定・調達・製造は中国へ外注(アプリ制作まで行う場合はほぼ全て)

というメーカーが圧倒的多数です。
後述しますが、シンプルな構造ながら分解が難しいほどきっちり組み立てられている。

自社製造(宮城県)でないとできない細部まで丁寧な造り込み

なお上記のケーブルなどは、もし海外で作るならば外注するメーカー側がよほど強くリクエストをしないかぎり現地の製造業者からは提案されない。

(大変残念ながら)海外で現地の製造受託メーカーに調達してもらったら、見た目はそっくりで中身が違うという「事故」が起きやすい部分でもある。

現実にはアシダ音響のような自社製造の体制でない限り調達も無理だと思います。

このケーブルと同等品が国外で安定して入手できるものかどうかすら定かでない。

国産の医療・産業用ケーブルメーカーが特定用途向けにつくる製品とはそうしたクオリティ。

こういうところにメーカーの個性が出ます。

なお個人的にオーディオ関連を選ぶときには「どの国で生産されているか」ではなく

誰が設計したのか
そして生産は自社法人かそれとも外注か

これはできる限り確認するようにしています。
つまり、

  1. 完全な外部業者や外部委託か
  2. 自社工場ないし自社グループか

アシダ音響は設計・製造ともに自社です。

堅牢しかもしなやかなヘッドバンドは材料のおかげ

ヘッドバンドは大きめ、そしてかなりしなやか。
弾力製がありフィット感は多くの人に合うものです。

後述しますが、かなり良質の部材と製造の手間が掛かっております。

ヘッドバンドはあえて樹脂押し出し材

なお数千円〜2万円ぐらいまでのヘッドフォンですと、普通ヘッドバンドは4年ぐらいでこうなる。

加水分解対策が2020年の今おしゃれデザインに

加水分解と申します

PUレザー(つまり合皮)が化学変化で崩壊する。
ヘッドバンドは汗・整髪料等にさらされるのでイヤーパッドと並んで劣化が早い。

防げません。

そのためアシダ音響はヘッドバンド部をあえて樹脂の押し出し材にした。

なお原型であるST-90の設計当時それを意図したとも思えませんが、このグレー調の樹脂バンドは2020年代の今、デザイン上のポイントになっています。涼しげです。

ヘッドバンドとイヤーパッドは最初に劣化する(壊れる)部分

例えば放送・業務用途はコンシューマーの数十倍の頻度で使われます。PUレザーもピンキリですがいずれにしても短期間でボロボロになるでしょう。

アシダ音響ではイヤーパッドの交換部品も安定的に供給しています。

なお合皮では加水分解を完全に防止することはできません。そのため数万円のヘッドフォンではリアルレザー(本革)が用いられる。

ただ量産で本革を加工する製造仕様は合皮よりも品質管理が難しく、組み立て上の問題が出てくることがあります。

これはP9 signatureでくらった不具合にてお伝えした通り。

ワイヤーバンドはメッキ処理済ピアノ線(ちょっと感動)

実は現物を見て最初に気になったのがこの金属のワイヤーバンド部分です。
デザイン上の特徴にして装着感の決め手でもある。

装着感に理想的な弾力性と完全な防錆対策

見た目のレトロではなく機能面で大きな意味がございます。

これがヘッドバンド部に入ることで弾力と強度が増しているわけですが、やけにキラキラしているのですよ。なんでしょうと。

メッキしてある
調べたらピアノ線でした。よくあるステンレスなどではない

軽いだけではない・頭や耳が痛くならないのはヘッドバンドのしなやかさ

簡単に採用できる素材ではありませんが、高い弾力性がありしかも折れや曲げに対して極めて強い。
弾性や耐久性、さらにはムレという点でヘッドバンド部の設計としては完璧です。

ピアノ線は最高だがコスト掛かりすぎの仕様

こいつがヘッドバンド内入っておりますからステンレスとは別種のしなやかさでフィットしやすい。

本体の軽さもあって「着けやすい」というレビューが多い理由です。

ただピアノ線それ自体は大変にサビやすい、それで完全にメッキしてある。
これなら確かに完璧な対策ですがコストは・・・あんまり考えたくありません。

いまどきピアノ線をわざわざメッキして使うとは。
ステンレスとか他のもっと安くて管理し易い部材に変えても、言い方は悪いですがバレないでしょうに。

ST-90-05は装着感に満足の声が圧倒的です、極めて軽いことも理由ですがそれだけではない。
ピアノ線は超古典的な材料ですが、しなやかさと耐久性は産業用途でも代わるものがいまだなかなかありません。

折るのが難しいほど堅牢なヘッドバンド・珍しいほど「丈夫で長持ち」仕様

なお他の製品ではヘッドバンドが折れたという不幸な例がたまにありますが、ST-90-05のヘッドバンドは手でへし折りでもしない限り壊れないでしょう。

もしかしたらそれでも完全に折ることはできないかもしれません。
ピアノ線はそういう素材です。

耐久性どころか、「壊すのが難しい」レベルです。

振動板によくわからない新素材を使うぐらいなら、こういう良質な定番素材をもっと使って欲しい。

厳選した部材と作り・現代ならば企画が通らない

しかしピアノ線はなにしろ加工しづらい。アシダ音響さんのような良質のメッキをしてくれないと錆びる。

材料状態で長い期間保管ができないのです、弾性とか曲げへの耐性は最高なんですが。
だから製造業、特に作るほうに近い関係者ほどほぼ全員が嫌います。

良質だが全てにコストが掛かる・高級ヘッドホンでも普通はステンレス

本当に在庫をしたくない、といいますよりできない。
産業用モーターの特注バネなどで扱ったのですが、サビで困る。

始末の悪いことにこういう高級部材ほど他に代えが効かず、いきなり必要になったりします。
いつも使えなくなった在庫の引き取りでモメます、イヤな交渉。

生産・販売計画をきっちり決めた上で使う分だけ手配するしかないのですが、アシダ音響さんは一体どうやって調達しているのでしょう。

作る側でいえばこういうところはステンレスが一番安いし苦労がありません。
実際に数万円クラスの高級ヘッドホンでもステンレスが普通です。

ただし装着感は確実に変わる、材料の性質(弾力性)が全く違います。
耐久性も変わります。

他のメーカーが絶対「やりたくない」設計・材料ばかり

加えてメッキ工程、もうそれだけで頭が痛くなるものです(本当に嫌)。
追加作業は高いし歩留まりの問題が出てくる。簡単にいえばメッキがきれいでないものは捨てるしかない。
外観検査の工数も増えます。

メーカーの眼でみて「贅沢なつくり」

全部コストアップ要素ですからやりたくない。
・・・と申し上げてはいまいちメーカー人の気持ちが伝わらないのではっきり言います。

アシダ音響さんの作り方はほぼ全てのメーカーが「可能な限りやりたくない仕様」です。

多分現代ならば企画あげても通りません、こんな手間かけて幾らで売ればいいんです?

致命的なことはここを良くしてもカタログアピールにまったくならないということ。Amazonの商品説明に書いても読んでもらえない。

しかもこの製品はこれをデザイン上の特徴にすらしてしまっている。
何度かコメントしましたが、この製品はどんなメーカー人がみても贅沢なつくりというでしょう。

値段を云やヤボですが、¥6,600のヘッドホンです。

今どき装着感を良くするためにピアノ線を使ってメッキかけましましょう、なんて提案したら

「いくらかかるかわかってんのか、この野郎!仕様のこともっと勉強してこい」
と怒られます。

そういうコスト常識を外れた提案はむちゃくちゃ怒られる世界です。

簡単に分解ができないほどきっちり組み立てのワーク

なおこの取付部分もメッキされたメタルです。
念のため(作ってくださった方には大変申し訳ないのですが)カッターで削って確かめた。

普通は樹脂にシルバー塗っておしまいでしょう。そのせいで他社ではここが割れたりはしますが。こいつにそれはない。

なお分解して中身を確認しようとしましたが、あまりにもきっちり入っていたので止めました。

遊びやガタなし
極めて堅牢な組み立てです。

制作作業をされている宮城県の皆様のワーク、そして入念な金型メンテナンス管理によるもの。

分解が困難なほど極めてタイトな造りですから、部材そのものの品質も作業者の皆さんはチェックされていると思います(それも結構馬鹿にならないコストなんですが)。

耐久性にコストを掛けてもカタログアピールにならない

なおいうまでもないことですが、上記の仕様や作業のコストは造り手たるアシダ音響さんの努力というか持ち出しです。

カタログに書いても誰も評価してくれませんから値段にONできない。

赤字ではないでしょうが、数千円のヘッドホンです。
この際「持ち出し」という言葉を使ってよろしいでしょう。

中国のOEM/ODMメーカーに「提案」してもらえばはるかに利益が出ます。

ただ「想定売価は¥6,600」でこの材料と品質をリクエストしたら断られる。

または中身を知りたくないほど似て非なるものが提案される。

アシダ音響はなにか得体の知れない努力をしているわけです。
買い手にしてみれば間違いなくお買い得には違いありませんが。

こういう製品は民生分野では久しぶりにお目にかかった。このワイヤーメッキはちょっと感動したぐらい(繰り返しますがそのぐらい嫌な工法です)。

しかしアシダ音響、まったく不思議な会社です。

アシダボックスは「ユーザーの3年目」を考えた耐久性

ヘッドホン・イヤホンの耐久性については前提があります

2年間故障がなければ上出来。

どのメーカーもそう考えているはずです。

普通のメーカーの考え方「2年間壊れなければ商売は成り立つ」

買って1年から2年目ぐらいで断線やらバンドが折れたらお客様は怒ります。
しかし3年目の不具合で文句は言いません。

「使って3年目で断線した、ひどい」なんてAmazonや価格.COMのレビューに書く人はいないので。
ほとんどの人は自分の使い方が荒かったとして納得して買い替える、アタクシもそうします。

商売としてもある意味健全、それが普通であります。

アシダ音響は「3年目以降も問題なく使える」設計とサポート

しかしST-90-05の仕様は3年経っても故障を心配することがない

「アシダ音響はユーザーの3年目からを考えている」の理由です。

そういう作りをしている、しかも消耗品たるイヤーパッドもきちんと自社で供給しています、ごく安価です。
これは大変な努力です。

シンプルかつ高耐久な構造。しかも消耗部分を最小限に抑えた上で、メーカーとして部材の安定供給も価格を含め努力を重ねている。

調べればすぐお分かりになりますが、イヤーパッド生産は本体の販売終了と同時におしまいのメーカーは多い。
しかたなく社外品で代用します。

しかし以下の理由から音質面でそれはまことによろしくないです。

イヤーパッドで音質は大きく変化・純正部品が重要な理由

イヤーパッドは基本的に消耗品ですが、音質面では大変に重要です。
もしかしたら振動板の素材より重要かもしれません。

イヤーピース(コンプライ)と同じ・振動板から鼓膜までの条件を決める

スピーカーと違い、イヤホンやヘッドホンは振動板から鼓膜までの距離が短く半密閉状態です。

わずかな変化で測定値は(本当に)大きく変化します。

イヤーピース(コンプライ)で音が変わるのと同じ理由です。

振動板から鼓膜や耳孔までの距離や位置、なによりかかる圧力が変わってしまうからです。
きちんとしたメーカーでは素材表面の反射さえ含め、注意深く設計されています。

安くてサイズが合うだけの社外品イヤーパッドはNG

代替の社外品は安い価格と装着感ばかりが評価されますが、音は当然変わります。

『サイズがぴったり合って交換できた、装着感もいい』

これは音質面でいえば残念ながらほとんどがNGです。

正確にいえば設計時とはかけ離れた音響特性になっている。

純正イヤーパッドの長期供給は設計本来の音質を維持する上でとても重要なのです。
ただメーカーにとっては相当に負担となる作業ではあります。

なおB&Wのイヤーパッドはひっくり返るぐらい高い、しかも供給はもうわからない。
こわごわ持ち出しておりますわけで、長くP3 series2の代替を探していた理由がお分かりいただけるかと。

修理サポートや補修部品の保有期間を定めた法律はない

そもそもサポートについてはよく「製造終了後何年」という言い方をします。
買う側にとっては当然のことですが、実は法律で決まっているわけではありません。

製造終了後のサポート期間はあくまで自主規制

特殊な例を除いてほぼ自主規制です。
全国家庭電気製品公正取引協議会のような業界団体で推奨しているだけ

日本社会ではこの程度の自主ルールでも重く受け止めます。逆にいえばこういうことが全く気にならないメーカーにとってルールはないに等しい。

極端な話、販売終了と同時に修理も終了、としてもいいのです。

そこまででなくとも、どんな高額な製品であろうが3年でサポートを完全に止めても、少なくとも「法律違反」にはなりません。

あくまで企業の自由意志に任せるべきという考え方です。

むしろ業界団体が自主規制を掛けることは良くない、独占禁止法違反になるのではないか、という法律解釈すら存在するほどです。

製造業でご飯を食べてきて面倒は承知の上で、アタシは規制があるべきだと思いますが。

クラウドファウンディングを全くおすすめしない理由でもあります。製品を買うことと誤解されておられる方がいらっしゃいますが、あれは厳密にいうと「事業案件への投資」です。

だいたい電機製品で初回の1,000台や2,000台なんて不良ゼロのほうが奇跡です。

サポート体制はメーカーの本質が現れる・製品のクオリティにも影響

それはさておきサポート期間は短くても法的には問題がない。

あとはそのメーカーが「品質」ひいては「商いの信用」をどう考えるか、もうそれだけです。
アシダ音響の姿勢については、いうまでもないと思います。

  • 医療・産業向けメーカー製の断線しづらいケーブル
  • 加水分解を避けた高耐久ヘッドバンド
  • 高弾性の素材を防錆加工したメタルバンド
  • 消耗品(イヤーパッド)を安価かつ安定供給

こういうことに取り組むメーカーの製品は何を作ろうが自然と高品質になる。

ソロバンだけでは難しい、会社の文化が大きく影響します。
社内にそれを是とする雰囲気がないと実現しません。

つまりこのST-90-05は10年使おうと思えば充分耐えるということです。

次回は音の理由について。古典的手法ながらピュアオーディオの好みを刺激する老舗の音決め

であります。

面倒な仕様を避ける今、本当に珍しいASHIDAVOX

しかしまあなんといいますか、製造業界なんぞに長くいるとこういう製品はグッとくる。

シンプルな構造なのに部品ひとつひとつが実によく考えられたていねいな製品です。
いまどきピアノ線にメッキとは恐れ入った。

この会社の製品にはどれもそういう特徴がある。

それを是とする製造メーカーに、アタシ自身の勤め先としては遂に縁がございませんでした。
ST-90-05を見るとちょいと寂しい。

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