真空管アンプは長く修理ができる、それこそ数十年にわたって。
ソウルノートはハイサンプリング化するハイレゾにも対応するモダンな音ですが、古典的設計のいいところをもっている。
内部を見たあと感じたことは「修理・メンテナンスは大丈夫そうだ」という安心です。
この場合の修理とは、オリジナルの音を回復できるという意味です。
部品に頼らない高音質設計が長期修理を可能に
聴くにつれA-0が気にいるとともに、部品に頼らず回路で音を実現していることに感心します。
パーツの銘柄で音を語ったりしない、あくまで回路。
プロの仕事とはこういうものです。
Pioneer A-09のようなものを使ったあとは特に。
A-0の内部を見た理由・A-09で思い知った「修理できない」辛さ
以下はA-0の修理はどうなるのかについて、内部をみたかった一番の理由でもあります。
- ごく汎用のオーディオ部品
- 高密度の実装をせず、ごく普通の片面プリント基板
- おそらく手はんだによる空中配線
- コネクター使用は最小限(コネクタの廃番は産業機器では悩みのタネです)
前回ご紹介したこれらは、修理に大変なメリットです。
同じ部品が手に入りやすく、特別なマシンも必要ない。
5年後、10年後でも同等品を調達できる部品構成
5年後、「そろそろ診てもらうか」と思ったとき
あるいはもっと後でオーバーホールと相なったとき
この部品群ならば、そしてこの回路構成ならば(繰り返しますが、かなり高度です)
相当数のパーツは10年後でも同等品があります。
シャーシに関しては、完全に壊れて治せないA-1・C-1・E-1・D-1Nから外せして使えるのではと思うほど(あくまで外形と画像からの予測ながら)。
むしろ高度のハンダ付けができるテクニシャンを探すほうがはるかに面倒のような気がします。
手ハンダならそこで音が変わるでしょう。
限りなくオリジナルに近い状態に戻す修理が可能
ソウルノートA-0はいわゆるカスタムパーツ的アプローチがありません。
素子・パーツはオーディオグレードでもごく標準的。
回路設計と現実のコンストラクションに確信があってできる手法です。
オーディオの修理は「音が出る」ではなく「できるだけオリジナルに近い」こと
これはA-0の修理は音が出る、というだけでなく
「限りなくオリジナルに近い状態に戻せる」
ということを意味します、部品で音を作らない良さです。
今回Aura VA-50をメンテナンスして頂いて、その意味がよくわかりました。VA-50もまた部品に頼らない音ゆえにメンテナンスが可能です。
以前DAP(デジタルオーディオプレーヤー)のほとんどが修理できないという現状について書いたことがありますが、ソウルノートは正反対です。
生まれた時から「本質的に修理不可能」がある・Pioneer A-09
こんなことを申し上げるのは、リリース直後から修理は考えていない製品は、国産メーカーにも意外に多いからです。
過去でいえばカスタムパーツ満載
現在ならばDAC内蔵アンプ
正確にいえば「修理はサポートと購買部門の仕事」と考えた設計。
大きな会社では仕方ない面もあるのですが。
Pioneer A-09は会社のパワーで修理しようとした設計の典型です。
90年代のパイオニアという会社でなければ調達出来ない部品満載。
同時期の「国産オーディオの名機」(あんまり好きな言葉じゃありませんが)に多い。
プラズマディスプレイ前後のパイオニアは「逆らえない会社」・エクスクルーシブやTADが作れた理由
最盛期のパイオニアは中小下請けにとっては逆らえない顧客でした。はっきり「わがまま」だったという意味です。
パワーがあった。だからどんな部品でも入手できた。
なにしろ光ディスクのパテントからアニメの制作会社まで持っている「マルチメディア企業」。
プラズマディスプレイが失敗する前は納入業者に無理押しが効いた。
こんにちのように「原価割れでもう作れません」が通用しない時代でもあります。
その産物がA-05やEXCLUSIVE(エクスクルーシブ)でありました。
TADやエクスクルーシブが爆発的に売れたという話はききません、普通ならば商売にならない規模で他を圧するクオリティを実現した。
あれはオーディオ技術よりレーザーディスクのパテント料で成り立っていたというのが正確です。
そして設計以上に購買力でみるべき製品群です、その証拠に現在の「TAD」のアンプ・プレーヤーは大変高額。
あれが正常な価格で、EXCLUSIVEも本来なら似たような値段だったはずです。
プリメインアンプ「A-09」はどんな部品でも意のままに入手できる会社の設計
そしてA-09は、実にじつに高度な内容です。¥430,000という価格は当時でも利益がなかったでしょう。
設計力ではなく会社に頼った造りでもある。
購買部門がカスタムパーツ調達に死力を尽くしてはじめて成り立つとでもいえばいいか。
「どんな部品も意のままに調達できる」という前提が必要で、ユーズドオーディオでは注意したい例だと思います、パーツがないので修理ができません。
大メーカーでなければ、あるいは今ともなればメーカーでも買えない部品はあるのです。
国産プリメインアンプの名機は音は出せても「音質は戻らない」
A-09内部はかなりのカスタム部品。
これでは無理矢理修理しても音は格下げです、そもそも似た汎用品がないものすら多い。
実は4年ほど前、15万以上の予算を覚悟でフルメンテナンスと思ってオンキョーパイオニアに連絡したのですが、にべもなく断られました。
エクスクルーシブのサービスと話したいと申し上げたら「ダメです」と。
もう「Pioneer」じゃなくなっていた、せめてオンキョーに買収される前にやるべきだったと後悔しましたがもう遅い。
国産プリメインアンプの中古相当数がこれにあたります。
現在の100万円プリメインアンプは用心深い設計
なおA-09ほかを指して「現在なら100万円クラス」といいますが、
今の100万円プリメインアンプは、部品選定についてはるかに普通だし用心深い設計です。
つまりなんでもかんでもカスタムしません、調達性と修理のことを重く考えます。
いい例がアキュフェーズです。
部品選定を間違えると3年後ですら修理できない可能性があると皆知っている。
旧パイオニアは会社が潰れるほどユーザーに還元した
これは明らかにしておかねばなりませんが、ONKYOグループに入る前の旧パイオニアは商売の買い手としては面倒でしたが、その分以上をユーザーに還元しました。
EXCLUSIVE(エクスクルーシヴ)は新製品なきままサポートのみで24年という異常さ
「オーディオの会社」という意識があったようでした。
Exclusiveのサポート終了が2019年9月末
確かPioneerが母体で最後の同ブランド新製品はパワーアンプ「M8」で1995年発売です。
24年間「新製品なきままサポートのみ続ける」という行為はメーカーとして尋常ではない。
商売ではなくまさに慈善事業で「EXCLUSIVEサポートが終わりました」という簡単な報道で済むようなものでなく、ファンとして感謝というか驚嘆のほかありません。
他にC-5とDATを使いましたが、とにかく丁寧なサービスでした。
仕事の面倒を忘れるほど、だからパイオニアは好きなのです。
アンプの発熱・SOULNOTE A-0は冷たい
なおSoulnote A-0は冷たいアンプです。
人情ではなく発熱が少ないという意味、つまり部品劣化が少ない。
冷たい、は言い過ぎか。しかし熱の話ですから。
これを熱いといっては買えるアンプがなくなります。
A-0の発熱はきわめて低い・AB級でこれ以下は無理
ソウルノートA-0は発熱する、という話があります。
なるほど発熱はしますがアンプとして温度の低い部類。
「熱い」というご意見は同社のホームページに注意事項があるのを見た人が想像したイメージです。
設計者の加藤氏は製品に思い入れ大きく、ユーザーにいかなる不安も招かせないよう全ての注意事項を書き尽くしています。
そして発熱はどのメーカーでも一番気を遣う。
熱電対をつけて測ったわけではありませんが、AB級でしかも低出力トランジスタ(東芝2SA1930/2SC5171)に定格10Wしか流さず、A-0以下の低い温度はまず無理です。
申し上げる理由は、アンプの熱対策は音と耐久性の両方に影響するため。
ソウルノートは熱の意味を理解しています。
Pioneer A-09は「A級にしては」放熱処理が上手かった・長持ちの理由
熱いアンプは確実に寿命が短くなる、耐久性の加速試験(過酷な環境で数年間の劣化を短期間で再現する)をしているようなものですから。
いっぽうで加藤秀樹氏はノイズ対策のスキルがある、そしてノイズのベテランは熱設計とセットでお分かりの人が多いです。
発熱する回路はノイジーなことが多いから。
イメージ先行でいろいろ言われやすいのがアンプの発熱です。
例えばPioneer A-09はA級でとんでもない発熱と言われましたが、排熱は上手です。
Pioneerにわかった設計者がいた証拠です。
A級アンプというスペックだけでモノを見ずに書いていた記事だなと思うものもありました。
ヒートシンクは熱くなりますが天板が触れないなんてことはない。
だからSNは良かったし、販売台数のわりに中古も生き残っています。
Aura VA-50は熱い・中古で生き残りが少ない理由
反対がAura VA-50で、あまり知られていませんが本当に触れないほど熱くなる。
Musicalfidelityと同じじゃないかというぐらい。
しかもシャーシがヒートシンクになっているため部品がイカれやすい、熱設計は下手です。
だから販売数が多くても中古の程度良品が少ない。
アタクシはガラスブロックを噛ませています、インシュレーターではなく単純に放熱のエアフローを確保するためです。
A-0は熱対策ができている・天板を見た理由
回路設計でノイズ対策と熱対策はベテラン専門の技能です。
こればかりは場数をこなさないとスキルが身に付かない。
僭越ながら加藤秀樹氏はかなりその点を熟知していらっしゃる方と思います。
ES9038PROでNOS(Non over sampling)なんて離れ業をやれるのはノイズのことがお分かりだから。
A-0のボンネットをご覧ください、穴だらけです。
CDプレーヤーC-1 のディスコン・光学ドライブ在庫以外は心配していない
見るにつけソウルノートは違った趣をそなえているように思います。
素人ごときが恐縮ですが、ソウルノートの加藤秀樹氏は「自分の責任において作る」と常に意識しているような。
その「加藤秀樹プロデュース」ソウルノートで(おそらく初の)製造中止が出ました。
高品位の音で定評があったそして人気がでるのが遅すぎたCDプレーヤー「C-1」は残念ながら製造終了(2022年9月)です。
CDドライブメカ自体の供給が終了したからです。
しかしメンテナンスはあまり心配しておりません。
光学ドライブメカの部品在庫が無くなれば流石におしまいですが、それ以外のところはA-0と同じく汎用・共用部品が多いと思われる内容だから。
そもそもそういう造りでなければ、あの価格であの音を出せない。
A-0は「将来オーバーホールしたくなる」アンプ
「加藤秀樹プロデュース」ソウルノートのスタンスは買う側にとっての幸いで、音だけでなく品質の点でも安心できるというもの。
出力10W、空中配線・気に入ったら他に代えづらい
A-0は気に入ったら他が見つけづらいのではないかと思います。エントリーモデルにして出力10W+10Wとかシブすぎですから。
独特の音に数年後オーバーホールしたいという方も少なくないはず。恐らくですがやれるはずです、少なくとも成り立ちはそうなっています。
このエンジニアは「CADで描けるもんなら作れる」「部品手配は購買の責任」などと微塵も考えていません。後々のこともブランドの責任と自ら任じています。
というわけで2回で終わらせるつもりが4回となりましたが
コスト制約がもたらしたオーディオ的ハイパフォーマンスを
- 堅実な設計
- 高品位の製造品質
- 長期メンテナンス
の3点から申し上げました。
第一回目ではデザインを酷評しました、正直な気持ちではあります。
まあしかし、これでデザインもあかぬけてたら、もう可愛げがありませんやね。